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「ロゼッタお嬢さーん。ここに居るー?」
入ってきたのはリーンハルトだった。こちらは今と大して変わらない姿だ。
救世主を期待したロゼッタだが、彼ではあまり期待出来ない。むしろ物事をややこしく掻き混ぜる天才だろう。
両手を掴まれたロゼッタに、掴むリカードとノアの姿を見たリーンハルトは、少し停止した後にっこりと笑った。
「何してるの?」
彼の言葉を聞いて、ロゼッタはぞわりと全身が粟立つのを覚えた。
表情は笑っているというものの目が笑っていない。そして言葉もどこか底冷えしている気がした。
彼の異様な雰囲気にリカードもノアも気付いた様で、二人共絶句して動かなかった。
「その、ハルト……?」
ロゼッタが控えめに声を掛けると、少しだけリーンハルトの雰囲気が和らいだ。
「ああ、続きどうぞ?」
しかし雰囲気が少し和らいだ程度で、笑顔は怖いままだった。何を怒っているのか予測してみたが、嫌な予感しかしない。
「もし不満があって当て付けのつもりなら、すごく効果的だと思うよロゼッタお嬢さん。相手がリカードとノアってのが物凄く気に入らないけど」
「ま、待って待ってハルト……ど、どういう意味かしら……?」
「どういう意味って、夫である俺に何か不満があったんじゃないの?」
不思議そうにリーンハルトはさらりと言う。冗談とかではない様だ。
やっぱり、とロゼッタは息を呑む。これで自称夫は三人目だ。両隣のリカードとノアも三人目の登場に驚きと苛立ちを隠せなかった。
「どういう事だ、ハルト。ロゼッタは俺の妻だが」
「リカードこそ何を言ってるの? 僻みなら他所でやってくれるかな。新婚だから早く二人っきりになりたいんだけど。ねぇ、ロゼッタ」
「……騎士長さんも、軍師さんももう出て行ってよ。僕と姫様は村に帰るんだから」
話は段々と大きく、そしてややこしい事になっていく。
ロゼッタを他所に、三人はギャーギャーと言い争いをしているが、ロゼッタはそれ所ではない。この状況は非常に頭が痛いものだった。このままでは誰がロゼッタの夫か結論を出さない限り終わらなさそうだった。
しかし、だ。ロゼッタは誰かと結婚した覚えは一切ない。つまりこの問題は答えが出ないのだ。
「ロゼッタさま、居ますか?」
声がした方向を向くと、また一人扉から入ってくる。その姿を見て、流石にロゼッタは目を見開いた。
髪や瞳の色からアルブレヒトだとすぐに分かった。だが身長もだいぶ伸び、顔立ちが大人びている。ロゼッタのよく知っているアルブレヒトだが、それよりも五歳位は年を重ねているだろう。それ程立派に成長した青年だった。
目線は同じ位だったというのに、目の前のアルブレヒトは見上げなければいけない。
「アル……?」
「良かった、ここに居て。一体何をして……?」
ロゼッタ、リカード、ノア、そしてリーンハルトを順番ずつに見て、アルブレヒトは怪訝そうな表情を浮かべた。
「ロゼッタ様から離れろ」
そして一言、はっきりした言葉で伝えた。アルブレヒトがリカードやリーンハルトにここまではっきりした物言いをするのは初めて聞くかもしれない。
ぼんやりとしていると、彼はロゼッタの腕を引き、自分の背にロゼッタを隠した。
「……一つ確認の為に聞くけど、姫様と弟の関係って?」
ロゼッタとて疑問に思っていたが、先に口を開いたのはノアだった。剣呑な目付きでアルブレヒトを見ているが、負けじとアルブレヒトも表情を険しくする。
「じ、自分とロゼッタ様は、その……今度、結婚する……」
照れが混じり、少し声が上擦りながらもアルブレヒトは答える。彼の背に隠されたロゼッタは真っ赤になった彼の耳を見上げた。大きくなっても根本的な所は変わっていないという安堵を生んだが、結局問題は解決せずに振り出しに戻る。
これで自称夫が四人目だ。四人目の登場にリカードもノアもリーンハルトも困惑している。
「まさか、これでシーくんも来たりなんて、しないよね〜……?」
「呼んだでしょうか?」
冗談交じりにリーンハルトが発言すると、本当に現れたのはシリルだった。姿形が変わっていない、記憶通りの彼だった。
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