短篇 | ナノ
9


「シリル、ロゼッタ様達、何してる」

「おやアルブレヒト。見てしまいましたか……」

 残念そうな表情をシリルは浮かべるが、この彼らの行為にアルブレヒトは全く意図が見出せない。新しい遊びかとも思ったが、リカードが遊んでいるとも思えない。

「リーンハルト! もっと真面目にしろ!」

 と、リーンハルトの姿をした男がリカードに怒鳴っている。リーンハルトはお前だろ、と全力でアルブレヒトは突っ込みたくなったが言葉は飲み込んだ。

「無茶言うなよリカード、痛いからさ……反射的に体が防御態勢に入るんだって」

 と、今度は外見リカードの男がリーンハルトに向かって言っている。普段の姿からは全く想像出来ない様ななよなよした喋り方だった。
 ノアとアルブレヒトは顔を見合わせる。二人の表情から遊んでいるとは思えないし、だからといって彼らの発言はふざけているかの様だ。

「随分と斬新な遊びだね。運命の出会いごっことか?」

「兄上、違うと思う」

「あ、あのですね……」

 違和感を感じて当然。これ以上隠し通すことは難しいと感じたシリルは、二人に自分の知っている限りの事を説明したのだった。



「入れ換わった……?」

 信じられない様な話の内容だったが、意外にもノアは興味津々でシリルに尋ねた。青い髪の奥にある深緑の瞳には、未だかつて無い程の好奇心の光が輝きを増していた。眠そうだった瞳はもうどこにもない。

「ええ、ぶつかった拍子に……最初は私も信じられなかったのですが、あんな二人を見ていると信じるしかなくて」

 ちらりとシリルは二人を盗み見る。未だあの衝撃を表現出来ていないリカードは苛立ち、リーンハルトに当たっていた。勿論体は逆なので、リーンハルトがリカードに怒鳴っている様に見えるのだ、そんな姿が三人には異様に映った。

「どうしたら戻るかしら……」

 二人の指揮に諦めたロゼッタは頭を抱えながらシリル達の元へとやって来る。ロゼッタの監督の元、二人がぶつかった時の衝撃を再現しようとしたものの一度も成功していない。
 どうやらぶつかると思った瞬間、どちらも反射的に防御してしまうらしい。やはり最初ぶつかった時の様に無防備でないと、思いっきり強打はしないらしい。

「まぁまぁ、そんな慌てなくていいんじゃない?」

 するとリーンハルトが後ろからロゼッタに抱き付くように腕を絡ませてきた。こんな動作はいつもの事だが、今日は体が違う。まるでリカードがロゼッタに後ろから抱き付いている様な光景なのだ。

「やめろリーンハルトォォオオ!」

 まるで自分がロゼッタに抱き付いている様に見えるからか、リカードが僅かに頬を赤くしながら叫ぶ。
 もう諦めて微動だにしないロゼッタと比べると可愛らしい反応だ。当のロゼッタは諦めて溜息を吐くだけに留めているというのに。若干、リカードが抱き付いているみたいで気持ち悪いと思いながらも。最近リーンハルトのセクハラのお陰で、セクハラに対して免疫が付きつつある。
 年頃の女の子としてそれはどうなのか、ロゼッタ自身もそれはちょっと考えものだと思っていた。
 例えリカードの体でロゼッタの頭に頬ずりされていても、犬に頬ずりされているだけだと思って忘れようとロゼッタは自己暗示を掛けていた。

「……軍師、リカードをからかうのは止めて下さい。血管が切れてしまいますよ。軍師の体の血管が」

「え、それは嫌だなぁ。俺の体なのに、リカードが入っているせいで血管がブチ切れるとか」

 シリルに言葉に、しょうがないとリーンハルトは拘束していたロゼッタの体を離した。

「でも、どうする。ハルト、リカード、元に戻る?」

「必死には考えてるわ。だけど、そう簡単じゃないみたいで……」

 もう神に祈るしかないかもしれないとロゼッタは思った。もう二十回以上二人にはぶつかって貰ったが、元に戻らなかった。
 二人がこのままだったらを考えると、背筋がぞっとしてしまう。このままでは彼らだけの問題ではない。ある意味、国全体の問題にもなってしまう。アスペラルの為にも何とかしなくてはいけない。

「ねぇ、姫様。僕、良い方法があるんだ」

「なに? なにか良い方法があるなら教えて」

 藁にも縋る思いだった。宮廷魔術師の彼ならば妙案があるかもしれないと期待を抱きながら。


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