短篇 | ナノ
3


(やっべ、これは予想外に面白い……!)

 王シュルヴェステルがリカードを詰問している頃、リーンハルトは玉座の間の扉を少しだけ開けて中を覗いていた。
 少々角度が悪いので見辛いが、リカードが段々と青くなるところも、王が段々と凍り付いた様な笑顔をしていくところも全て見た。そして彼は腹を抱えて、声を出さない様にして笑っていた。

(これはこれは……あ、リカードの奴かなり青い)

 いつも仏頂面な友人が慌てる様を見るのはなんて面白いのだろう、と彼は笑った。性格が悪いと思いつつも、この快感は止められない。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものである。

(というか、普段は余裕綽々のシルヴィーも娘が絡むとやっぱ……)

 目の色が違う、と言った方が適切だろう。ロゼッタが絡んだ事で、王シュルヴェステルからは余裕が感じられない。
 ふっ、とリーンハルトは吹き出した。

(……そうだ、もう一人からかい甲斐がありそうな子いるのよね)

 ニヤリとリーンハルトの口元は歪み、彼はそっと玉座の間の前を離れていったのだった。


    ***


 その頃、離宮の書斎ではシリルの講義が行われ、それをロゼッタが黙々と聞いていた。丁寧に解説するシリルに、彼女は熱心にノートに文字を埋めていた。
 部屋の隅にはアルブレヒトが椅子に座っていた。ロゼッタの護衛の為にいるのだが、勉強している二人をただ黙って眺めていた。

「……ねえ、姫様ってここにいる?」

 すると突然部屋にノアがやって来た。ノックもなしに扉を彼は開けているが、三人はそれどころではない。むしろ、彼がここに訪れた事自体に驚きを隠せない様であった。

「ノア?! どうしたの突然?!」

 普段は地下室に引き籠りがちなノア。部屋から出てこいと言ってもなかなか言う事を聞かない彼が、自ら出てくるとは滅多にない事である。
 アルブレヒトさえ目を見開いてた。

「いや……僕の部屋の扉に、何か変な物が貼られてて……」

 ノアの説明によると、先程まで部屋で眠っていたらしい。すると突然部屋の扉がノックされた。普段は使用人も滅多にノックをしないので、何事かと思って扉を見てみると貼り紙らしきものがあったらしい。

「貼り紙……? それと私が何か関係があるの?」

「これ、姫様じゃない?」

 とても眠そうな表情で、どうでもよさそうに彼は例の貼り紙を彼女に渡した。
 貼り紙と言っても左程大きくはない紙だった。普通のどこでもある紙に、更に小さい写真が何枚も貼られていたのだ。

 その写真にはロゼッタと、そしてリカードが写っていた。どうやら二人で並んで歩いているところの様だ。

「な、何これ?!」

 覚えのない彼女は驚くしかない。どうしてこんな物がノアの部屋の扉に貼られていたのか、それにこの写真は誰が用意したのか。悪戯にしては随分と手が込んでいた。

「これは……リカード、ですね。ロゼッタ様、これは一体?」

「わ、分からないわ。こんなの覚えがないもの」

 並んで歩いた事なら確かにある。だが、写真を撮られた覚えなど一度もない。混乱したロゼッタはこれは何、と落ち着きを無くしていた。

「……姫様と騎士長って、やっぱそういう仲だったの?」

 写真を覗きこみながら、一人冷静なノアはぽつりと呟いた。
 今思えば、彼と初めて会った時もリカードの新しい彼女と勘違いされた気がする。あの時はリカードが否定したが、それは嘘なのか、とノアは首を傾げていた。

「は?!」

「だって、仲良さそうだし……逢引きでもする仲なのかと」

「ち、違うに決まってるでしょ!」

 頬を少しだけ赤く染めてロゼッタは否定した。当然彼女がリカードと恋仲になった覚えはないし、想いを寄せた事もない。
 だが一度そんな勘違いをされてしまうと、そんな事実が無くとも照れて頬を染めてしまっていた。

「結構仲良さそうだよね、これ」

「だから違うって!」

 写真を見ながら、ノアは少しだけ目線を上げる。からかっているのか、それとも本気なのか、彼の場合表情が見えないので分かり辛い。

「……しかしロゼッタ様、この悪戯は一体誰がしたのでしょうか? 流石にこれでは変な噂が立つ可能性も……」

 彼女の身を案じて、シリルは可能性について述べる。
 確かにノアの様に、この写真を見た者の中にはロゼッタとリカードがそういう仲なのだと誤解する者もいるだろう。

「ど、どうしたら良いと思いますかシリルさん?」

 こういう時の対処法など、ロゼッタには思いつかない。一番大人なシリルに助力を求めるしかなかった。

「……こういった写真を撮れる方ですし、離宮内の人間と考えた方が良さそうですね。多分、私達が見知った者かと」

「犯人を絶対に見つけなきゃ……」

 講義も半ば、だが事は急ぐという事で、急遽この悪戯の犯人を探すという事になったのだった。


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