短篇 | ナノ
2


――後日

 リカードは本城で仕事をしていた。彼は騎士団を束ねる役職なので、騎士の訓練を行うのも彼の仕事であった。
 体力を作らせる為に、騎士達には腕立てや腹筋を課していたリカード。それも終わりに近付いた為、次の指示を飛ばそうと考えていた。

「次は……」

「リカード」

 模擬試合を行う、と言い掛けた。言い掛けただけで彼の言葉は遮られたのだった。

「……何だ、ハルトか。何か用か?」

 振り向き様に、リカードは仏頂面で呟く。リーンハルトは片手を軽く上げた。
 珍しく兵士・騎士の訓練場に訪れたリーンハルト。彼がここに来るのはかなり珍しい事である。何故なら、ここは男しかいない。リーンハルト曰く、むさ苦しい野郎共に囲まれたくない、だそうだ。
 だが、今日は来た。ならば、彼がここに何か大切な用事があって来たという事が読み取れる。

「陛下が御呼びだ。玉座の間に至急来いとの事」

 リーンハルトは親指で後方にある城を指差す。

「は?」

 リカードは眉間に眉を寄せた。
 何故なら、王に直々に呼び出される理由が思い付かないからだ。いくらリカードが騎士団長でも、そうそう呼び出される事はない。
 理由を問いたそうにリカードはリーンハルトを見た。しかし、彼は意味深長に笑っているだけである。

「行ってみれば分かるよ。ほら、早く行かなきゃ。陛下を待たせるなんて、失礼だよ」

「あ、ああ」

 呼び出されたからには至急向かわなくてはならない。リカードには腑に落ちない部分もあったが、部下達には各自鍛錬に勤しめと指示すると、城の玉座の間へ向かったのだった。


***


 玉座の間には何度来ても、リカードは緊張していた。

 玉座の間の扉の前に彼の姿はあった。走ってきたので荒れた息を整えながら、彼は扉を見上げる。
 この扉の奥には、彼が尊敬して止まないアスペラル王がいる。いつもここに来る時思うのだ、王の前で粗相無い様にしなくては、と。

「陛下、失礼します。リカード=アッヒェンヴァル只今参りました」

 そう声を掛け、彼は玉座の間の扉を開けた。
 部屋の最奥、壇上の上にある玉座には見慣れた漆黒の髪をした王・シュルヴェステルが鎮座していた。

 心臓が何度も緊張で跳ねるのを抑えながら、リカードは玉座の前まで行き、その場に跪いた。数秒後に面を上げなさい、という王の言葉を聞き、リカードは頭を上げた。
 オニキスの様な黒眼と、リカードの目は合った。

「御用とは何でしょうか?」

「ああ、実は重要な情報を手に入れてね……」

「重要な?」

 ここ最近、アスペラルと隣国のアルセル公国は不穏な関係が続いていた。戦争も近いのでは、という噂も飛び交う程だ。
 それについてだろうか、とリカードは思った。騎士団を束ねる彼は戦争で戦う義務がある。こういう話ならば、王に呼び出されても何ら違和感はない。

「……まずはこれを見なさい」

 すると王は近くに控えていた側近に、リカードにとある物を渡す様にと伝える。側近は何かを台に乗せ、リカードの前に置いた。
 その上にあったのは、十数枚の写真であった。しかも、リカードの見覚えの無いものばかり。なのに写っているのはリカードと、王の娘ロゼッタ。

 全ての写真に二人が写っていた。並んで歩いているところのようだが、全く覚えが無いリカードは目を丸くした。

「……これは……?」

 そう尋ねずにはいられない。それ程リカードは混乱していた。

「で、これは……どういう事かな、リカード。説明なさい」

 シュルヴェステルの言葉に、リカードの背筋が凍った。
 今日呼び出されたのは、騎士団の事や戦争の事ではない。むしろ今、詰問されていると彼は悟った。

 シュルヴェステルは黒い瞳を細めた。冷ややかな雰囲気が彼から流れ出ている。

「い、いや……私は何も知らない、です」

 声を必死に絞り出し、リカードは平静を保とうとする。

「何も知らない……? 随分と仲が良さそうだが……まさか、ハルトの言う通り娘に手を出してたりは……」

「まさか! 決してその様な事実はありません! それはハルトの戯言です!」

 ぶんぶん、とリカードは頭を横に振る。まるで怯えるかの様に彼は何度も振っていた。

「そうか、ならば良いが……もし娘に何かあれば、分かっているな、リカード?」

 そう言って微笑むシュルヴェステルの瞳は、決して笑っていなかった。


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