アスペラル | ナノ
3


「あー、疲れた!もう走れない!」

 抱えていた子供を下ろし、疲れ果てたロゼッタは肩で息をした。下ろされた子供は周りできゃっきゃっとはしゃいでいる。
 そんな子供達を微笑ましく思いながらも、ロゼッタは丘に腰を下ろした。子供を抱えて全力疾走したせいで、もう足が痛い。

「アンセル、リーノ、さっきはよくも笑ってくれたわね」

「だってお姉ちゃん、おもしろいんだもん」

「ね!」

 ブラウンの髪をした少年がアンセル、若草色の髪をした少女がリーノ。ロゼッタと一緒に孤児院に住んでいる二人は仲が良い。勿論、ロゼッタとも。
 幼い二人を世話しているのも、面倒見の良い彼女であった。ロゼッタは二人を本当の弟、妹の様に思っている。

「あ、もう少しで夕暮れね。アンセル、リーノ、もうちょい遊んだら帰りましょう」

 今帰っては、まだ修道女の怒りは収まっていない筈。つまり、ほとぼりが冷めたら帰ろうという意味だった。
 その意味をすぐに察したアンセルとリーノ。二人はロゼッタの隣にちょこんと座り空を見上げた。

 徐々に青く澄んでいた空が、橙色に染められていく。ロゼッタの美しい銀髪も光を反射して赤く染まっていた。

「ロゼお姉ちゃん」

「何リーノ?」

「今年のお誕生日は何が届くだろうね?」

「さ、さぁ……」

 無邪気に笑い、リーノは聞いてきた。そんな彼女にロゼッタは曖昧に笑い返すしかない。

 ロゼッタは残り数日で十七回目の誕生日を迎える。毎年教会で一緒に暮らす皆が祝ってくれるので嬉しいのだが、もう一人祝ってくれる人物が居る。

 そう、父親だ。

 といっても、顔は見た事もないし、彼が教会に来ているわけではない。大抵、知らぬ間に教会の扉の前にロゼッタ宛のプレゼントが置かれているのだ。それも毎年欠かさずに。
 毎年プレゼントを寄越す位なら、迎えに来いとロゼッタは怒鳴ってやりたかった。しかし、十数年一向に現れない相手に怒鳴れない。モヤモヤとした気持ちは毎年募るだけであった。

 去年は上等な生地を使った、新緑色をしたドレス。銀髪がよく映え、かつその頃の流行をよくとらえていた。
 一昨年はペンダント。綺麗な深い青の石をはめ込まれた物であった。

 どちらもお店で買おうとしても、ロゼッタのお小遣いでは何年かかかっても買えないだろう。それ程高価そうな物であった。
 が、結局は使うに使えず、クローゼットに仕舞われたままなのだが。

「今年も楽しみだね!」

「そ、そうね……」

 ロゼッタは複雑な心境であった。
 こう、毎年高価な贈り物をしてくる父親。少しでも自分の事を気にかけてくれているのならば、それ以上に嬉しい事はない。だが、ちゃんと娘と思ってくれているなら、何故教会に預けたままなのだろうか。この教会での生活が嫌なのではない。ロゼッタが「いらない」から、教会に預けたままなのではないだろうかと、彼女はたまに不安になっていた。

 聞きたくても聞けるはずが無い。聞く手段など、持ち合わせてはいないのだから。

「僕、今年はご馳走がいいなー」

 二人の話を聞いていたアンセルが、お腹を摩りながらそう呟く。夕刻という事もあり、大分お腹が空いてきたのだろう。
 ロゼッタはクスリと笑い、そうね、と呟いた。

「ご馳走なら、皆で食べられるものね。ご馳走の方が良いわ。ドレスやアクセサリーは食べられないし」

 そうイタズラっぽく笑ってみせ、ロゼッタは自分には大事な弟や妹がいるじゃないか、と言い聞かせた。

 自分は恵まれている。厳しいが優しい修道女達に育てられ、可愛い弟や妹に囲まれ、とても幸せなのだから。村に住む他の女の子達はお洒落をしたり、恋をしたりと楽しげだが、ロゼッタは幼い子達の世話をするのは嫌いではない。この生活でも充分満足していた。

 この先に待ち受けるものも知らずに――


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