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リカードにとっては普通に歩いているつもりなのだろう。だが、ロゼッタには彼のペースは少し早く、気を抜いたら置いていかれてしまいそうであった。
ロゼッタは早足で、リカードの隣を歩いた。彼はアルブレヒトとは違い、彼女を王と認めていない。
隣を歩いても何も言う事はなく、気遣う事もなかった。
「ねぇ、リカード。ここって……一体どこなの?」
「離宮だ、離宮。お前が寝ている間に運んでやったんだ」
「離宮……?!」
当初の目的地を忘れていたロゼッタは、そういえば、と呟いた。
彼女は元より父王の計らいにより、離宮に住む事になっていたのだ。この豪華な内装の建物が離宮なのだと、彼女は今初めて知ったのだった。
とりあえず、彼の言葉にはロゼッタは胸を撫で下ろした。ルデルト家に捕まったというのは、彼女の想像に過ぎなかったのだから。
「……でも随分人がいないわ。さっきから、誰とも会わなかったもの。変態以外とは」
離宮とはいえ、一応ここも城の筈。絵本で見たり話で聞いたりすると、城には何百人ものの使用人や騎士がいる印象があった。
「だから変態は忘れろ……この城には最低限の使用人しかいない」
「何で?」
「……お前の存在を広めない為だ。一応お前は陛下の子だからな。信頼出来る使用人を最低限しか配備してないんだ」
「あ、そういえばそんな事リカードが前にも言ってたような……」
それはロゼッタにも聞いた覚えがあった。確かあれは、離宮を目指して森を歩いていた時だ。リカードとシリルが話しているのを、ロゼッタはちゃんと聞いている。
「あぁ、前にも言った。一度で覚えろ馬鹿」
鼻で笑い、分かりやすく小馬鹿にしてくるリカードには慣れてきた。勿論、そんな彼に突っ掛かるのは止めないが。
「失礼ね!」
「もう少し賢くなれ馬鹿。まぁ、大して脳に栄養が行ってないんだろうな。なのに身体にも栄養が行ってない辺りが……特に可哀想に」
「ちょっと!そこを憐れまないで!」
まだその話を引きずっているのか、また彼は憐れむように見下ろしている。ムッとロゼッタは口をへの字に曲げた。
森を一緒に歩いている時よりは多少取っつき易くなったが、物言いは相変わらず失礼。小馬鹿にした態度の他に、本気で憐れんでくるので、それが一番腹立たしかった。
「……くしゅんっ」
すると、鼻を押さえてロゼッタは小さなくしゃみをした。まだ暖かい日とはいえ、彼女の格好は薄い寝間着一枚。身体が冷えたのだろう。
それでも横を見上げれば、リカードは特に興味関心が無いらしく、黙々と歩いている。ロゼッタに一言も掛けない。
「……こういう時位、少しは何か言葉かけたら?」
「薄着で歩いている方が悪い」
「だから、起きたらコレしかなかったのよ…………って、そういえば、コレ誰が着せたの?」
起きたら今着ている白い寝間着を着ていた。だが、眠る前彼女は普通の服を着ていたのだ。つまり、誰かが着替えさせたという事だろう。
しかし、ロゼッタが今まで会った城の住人と言えば、アルブレヒトとシリルとリカード。
「もしかして……」
ロゼッタは嫌な予感がした。特にアルブレヒトは素でやりかねない。
「城に仕えている女の使用人だ。俺らではない」
「あ、何だ、そっか」
「流石にそれが不味い事位俺もシリルも分かっている。アルブレヒトはまぁ……一度手伝おうとしてたが」
「え……?!」
ロゼッタの足が止まった。止まったというよりは、固まって動けなくなった。
「いや、他の使用人に止められたからしてはいない」
「良かった……」
裸を見られていない事にロゼッタは安堵した。きっとアルブレヒトはその気はない。ただ純粋に手伝いだけなのだろう。
それはそれでどうかと思うが。
横でリカードが再び、見る所なんて大してないだろ、とぼやいていたのでとりあえずロゼッタは彼の肩をバシッと叩いたのだった。
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