3
ペタペタと、ロゼッタが歩く度に音がする。彼女は裸足の為、石材で出来た床に足が着くと音がするのだ。
だが彼女はそんな事は一向に気にせず、廊下を歩いていった。
「何でこんなに広いのよ……」
室内で目を覚ましたロゼッタには今いるこの建物が城である事も、かなりの広さである事も知らない。
部屋を出た時はすぐに見つかると思っていたのだが、予想外の廊下の広さにうんざりしながらも歩いていた。
ようやく曲がり角を見つけても、更に道が続いている。同じ風景の廊下ばかりで、彼女は既にどれ位部屋から離れたのか分からなかった。
「それに、住人とかいないの……?こんなに歩いたのに、誰とも会えないなんて……」
石造りの廊下には点々と両脇に部屋の扉があり、壁には燭台が並んでいるだけ。人の気配はなく、誰かが歩いている姿を彼女は見つけられなかった。
「アルー?シリルさーん?いないのー?」
彼女なりの強行手段に出た。
随分と広い様なので、彼女は廊下を歩きながら探している人物の名前を叫んだ。
だが、ロゼッタの声は反響して返ってくるだけ。誰かが来てくれたりする事は無かった。
「もう、何なのこれ……」
疲れ果て、彼女はその場にしゃがみこんだ。うんざりそうに呟き、膝に顔を埋めた。
普段なら廊下の真ん中でこんな事はしない。だが、誰もいない様なので人目を気にする事はなかった。
「もしかして……捕まった、とかじゃないわよね……?」
彼女にはその可能性も充分に有り得た。
もしかしたら彼女が眠っている間に何かが起き、連れ去られたのかもしれない、ロゼッタは蹲りながらそう考えた。
「じゃあ……アルやシリルさん、それにリカードは……?」
自身が捕まったのなら彼らも捕まったのだろう、とロゼッタは勘違いした。
「探さなきゃ……!」
ロゼッタは顔を上げ、勢い良く立ち上がった。
もし彼らが捕まっていたとしたら、彼女は助けるつもりだった。例え出来る事は少なくとも。
ロゼッタは再び歩き出した。歩きながら、今度は両脇に並んでいる部屋を覗いていく。数センチだけ隙間を開け、そこから室内を見て回った。
しかし、どこも家具はあるものの誰もいない。生活感も全く感じなかった。
それでもめげずにロゼッタは部屋を見て回っていった。
「ここもいない……」
静かに音もなく扉を閉め、彼女は溜息を吐いた。これで何部屋かは分からないが、随分と見て回ったにも関わらず、アルブレヒトやシリル、リカードもいない。
また、他の人さえいない様であった。それには僅かに違和感を覚える。こんなに部屋数もあり、広いというのに人と全く会わないのも珍しい。
「本当にここってどこなのかしら……?捕まったなら、ルデルト家の屋敷って事?」
だが、彼女の問いに誰かが答えてくれるという事はない。辺りはしんと静まっている。
(……三人は大丈夫かな?私がいつも巻き込んでるから……)
アルブレヒトとシリルをこの短い間で、三回は巻き込んでしまっている。リカードも二回は巻き込んで迷惑を掛けた。
「こんな状況になったのも、私のせい……?」
「こんな状況って、どんな状況?」
「……え?」
誰もいないと思って呟いたが、予想外にも彼女に言葉が返ってきた。
声がしたのは後ろから。しかも、随分と若い男性の声だった。リカードやシリルとは違った、低めの声。
ロゼッタは驚いて後ろを振り向く。
「え?誰……?」
ロゼッタは瞳を大きく見開いた。彼女の水色の瞳に映ったのは、見た事もない金髪の男性であった。
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