アスペラル | ナノ
幕間1


 馬車を降りて直後の事……

「おい、女」

「だから、女って呼ばないで!」

 この攻防が、馬車から降りて何度起きただろうか。未だロゼッタを女呼びするリカードに、彼女は勇敢にも何度も食って掛かっていた。
 アスペラルの騎士団長である彼に食って掛かる女性など滅多にいない。

 シリルは珍獣でも見るかの様に二人を見ていた。

「私には名前があるわ」

「あっそう」

「リカード、ロゼッタ様に無礼」

 言い争う二人の間に、アルブレヒトまで参戦。彼はロゼッタの味方の為、二対一でリカードは不利だった。

「勝手にしろ」

 子供二人を相手にするのが面倒になったのか、大人な対応を見せ始めたリカード。彼はさっさと先へ行こうと歩みだした。

「ちょっと待ちなさいよ、リカード」

 ピクッとリカードは反応し、ロゼッタを振り返った。別に彼女の言う事を聞いたわけではない。
 彼女の言葉に聞き捨てならない言葉を耳にしたからだ。

「……おい、目上に対して呼び捨てか?敬称を付けろ、敬称を」

「敬称……というか、リカードって何歳なのよ。そりゃ年上だろうけど」

「……22だ」

 ロゼッタより五歳上らしい。確かに結構年上の様だ。彼女と言い争う点においては、精神年齢はまた別という事だろう。

「意外と老けてるのね」

「別にそういう話をしているわけではない。年上に対する礼儀位、ちゃんと考えろ」

「分かったわ……」

 意外と素直にロゼッタは了承した。
 そして口を開いた彼女は、次の瞬間大きな声で言った。



「……リカードとリカちゃん、どっちで呼んでほしい?」



 固まるリカードを余所に、ロゼッタは満足した面持ちで笑う。馬車内での出来事をまだ根に持っているようだ。

「どちらも嫌に決まっているだろう。普通に呼べ。シリルにだって『さん』を付けているだろう」

「え?だって、あんたの事敬う気はないし」


 そしてこの話は結局有耶無耶になった。リカードとロゼッタの口論によって。
 これ以来、彼女がリカードを呼び捨てしても彼は何も言わなくなったのだった。



幕間1end

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