アスペラル | ナノ
10


 だが、今のアルブレヒトの言葉に若干違和感を覚えたロゼッタ。四年前となると、アルブレヒトは十一歳という事になるが、何だか彼は当時の事をよく知っているようにも思える。まるで、四年前もそこにいたかの様に。

「アルはいつから城に仕えてるの?」

 自然と彼女の口は思った疑問を声に出していた。

「……五年前から」

 ぽつりと呟いたアルブレヒト。つまりは彼は十歳の時から城仕えしているらしい。
 その答えにはロゼッタも目を丸くして驚いた。

「十歳の時から?!」

「うむ。陛下の……侍従として」

「結構長いのね」

「……うむ」

 あまりこの話題に乗り気ではないのか、アルブレヒトは返事以外喋ろうとしなかった。様子がおかしい事にロゼッタもすぐに気付くが、理由を聞く事はせず、この話題を終わらせる事を彼女は選んだ。

「それにしても、リカードいないわね。どこまで行ったのかしら……?」

 野宿をしている場所から大分離れただろう。結構二人は歩いたはずだ。しかし、いくら経ってもリカードらしき人物を見つけられずにいた。
 未だ見つからない苛立ちから、思わずロゼッタは憤った様に小言を呟く。

「……ロゼッタ様、リカード嫌い?」

「え?」

 突然アルブレヒトから質問を投げ掛けられ、ロゼッタは驚いて振り向いた。この質問にどういう意味があるのか、彼女には全く分からなかった。
 しかし、彼は至って真面目。表情の読み取りづらい無表情でロゼッタを見ている。

「そうね……大嫌いってわけでもないけど、失礼な事を言ったり、女って呼んだりするから、好きではないわ」

 思っている事を素直に彼女は口にしていた。ここで世辞を言っても仕方がないし、リカードに言ってやる必要も無い。
 だが最初見た時は正直、格好良いと思ったのは内緒だ。もう少しで斬られるところを騎士が助けてくれたという絵本の様なシチュエーションに、少しだけときめいたのは仕方ない。

 その後の暴言の数々で、一気に幻滅したのは言うまでもないが。

「……リカード、普段は優しい」

「え?」

 意外な事に、アルブレヒトの口から漏れたのはリカードを擁護する様な言葉だった。
 馬車に乗っている最中や森を歩いている時、たまにロゼッタの横でリカードとアルブレヒトは衝突していた。主な原因は勿論ロゼッタの事で。二人は仲が良いのか悪いのか分からなかった。だが、実の所アルブレヒトの言葉からそうでもない様であった。

「ロゼッタ様には、厳しい。けど、普段は良い奴。正義感も強い」

「私にはヒドイけどね」

「……リカード、陛下が大好き。だから辞めて欲しくない」

 王である父親は随分と部下に慕われているらしい。何だかそこは少しだけ嬉しくなった。

「どうしてそんなにお父さんの事好きなのかしら?」

 イマイチ自分の父親がどういう人なのか分からないので、彼女は何とも言えない。そんなに尊敬される人物なのだろうか、と彼女は心の中で呟いた。

「陛下は賢王。だから尊敬している。それから、リカードは昔苦労していた」

「苦労?」

 ロゼッタの頭の中では眉間に皺を寄せ、ロゼッタの事を鼻で笑っているリカードしか想像出来ない。どんな苦労をしたのか、全く思いつかなかった。
 彼女の疑問に、少しだけアルブレヒトは言うべきか、言わざるべきか考えた。

「……アッヒェンヴァル家は貴族」

「えっと、それってリカードの家よね?」

「うむ。リカードはアッヒェンヴァル家の嫡男。昔から期待されて育った。将来、家を継ぐから」

 貴族などの話は世界が違い過ぎてロゼッタにはあまり想像が出来ない。だが、彼もしっかりとした様々な教育を受けたりしたに違いない。これからロゼッタが受けなければならない教育と同様に。

「アッヒェンヴァル家は名門。富も地位もある。だから、昔からリカードに色んな人が群がる。富を狙う人、地位を狙う人。様々に」

 馬車に乗っている時、リカードはロゼッタに向けて言っていた。権力に群がる奴が大嫌いだ、と。きっとこれは彼の今までの人生経験のせいなのかもしれない。
 正直、彼が貴族の出だと知った時、ロゼッタは彼が苦労知らずの良い所の坊ちゃんなんだと思った。彼女とは育ちからして違う、裕福な育ちなのだとも。

 だが、彼は彼なり苦労している様だ。

「だけど、陛下に仕えて、騎士である事に誇りを持った。陛下なら命まで捧げられる、と。陛下のお陰。だから陛下を尊敬」

 彼にとって王に仕える事は大きな理由があるという事。きっと、リカードの中には王に対する忠誠や敬愛の念など、ロゼッタには計り知れない程の様々な感情があるのだ。

 そして、それをアルブレヒトはロゼッタに知って欲しかったに違いない。リカードがロゼッタの王位継承に反対するのは、ちゃんとした理由がある事を。
 彼はリカードもロゼッタも好きだから、和睦させる事は無理でも、お互いを知って欲しかったのだ。

「まぁ、リカードがどういう人かは分かったわ。すぐに仲良くはなれないけど……ちょっとは歩み寄ってみるわ。あっちがしてくれないと、無理そうだけど」

「大丈夫。あぁ見えて、リカードお人好し」

 ロゼッタにはあんまりお人好しには見えない。だが、アルブレヒトがそう言うならそうに違いない。

「さて、またリカード探さなきゃね」

 くるっとロゼッタは前を向き、再び歩き始める。だが、すぐに後ろにいたアルブレヒトに腕を掴まれ歩みを止める羽目に。

「な、何?!」

「ロゼッタ様、静かに」

 それを静かな声で告げるアルブレヒトの青い瞳は、鋭さを秘めていた。



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