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じっくり腰の剣を見下ろしてみるが、そこに魔術の有無は分からなかった。そもそも感じ取れるものなのかも分からないが、ロゼッタには変哲ない剣だ。
「少し語弊があるかもしれませんね。確かに剣には付加魔術の一種がかかってますが、術者の手を離れてしまっているので、もうそこには呪(まじな)い程度の効力しかありません」
「まじない……?」
ええ、とシリルは頷いた。
付加魔術というのはロゼッタも目にした事がある。分かりやすい例で言えば、やはりリカードの火の魔術を使った付加魔術だろう。剣に付加し、斬撃に魔術攻撃を加える術。ロゼッタが前に見たのは剣に巻き付く炎。それらが敵を飲み込む様は圧巻だった。
「付加魔術といのは元々武器の強化にも使われるんです。私は地属性ですから、こちらの剣には『守護』となる付加をさせて頂きました。多少は、ロゼッタ様を守る手伝いはしてくれると思うのですが……こういう術は普段使わないので難しかったです」
ちゃんと効けばいいのですが、と自信無さそうにシリルは笑った。
彼の話ではこれはお呪いだから、彼女の危機に魔術が発動する様な都合のいい事は起きないらしい。剣を使うのはロゼッタだ。使い道を決めるのは彼女であり、そんな彼女に対するお守りなのだという。
だが彼女がしっかりと剣を握れば、魔術も剣もそれに応えるものだとシリルは教えてくれた。
「俺は風の魔術生かして『軽量』にしてみたよ。剣振るなら、やっぱ軽い方がいいもんね」
二番目に言ったのはリーンハルト。少しだけ軽く感じるとは思うよ、と彼は言う。
確かに訓練で使う鈍らよりは軽く感じる。ロゼッタの細腕でも振るう事は出来そうだ。しかもより軽くする為に、装飾類は一切省いたらしい。
ロゼッタ自身もごてごてに飾り付けられた剣よりも、こういった簡素な方が持ち易いと思った。
「……攻撃特化の方がいいかと思って、僕はより『鋭利』に。氷って冷たくて鋭いでしょ」
三番目にノア。鞘から剣を引き抜くと薄い刃がぎらりと光を反射する。
きっとよく切れるよ、とノアは不穏に笑った。
「これは俺も言う流れなのか……? 俺のは刃の『強固』だ。火と鋼は相性がいいからな。より強く、折れぬ様にと」
アスペラルの鍛冶職人は火属性の魔術を使えるのが最低条件と言われる程に、火属性が重要視される。それは高温で熱する作業と、そして火の精霊と金属の相性が良いからだと言われている。
それ故に付加魔術でも武器と火属性の魔術は相性がいい。
剣を作る際何度も高温で熱し叩く事で硬くなる様に、炎を付加する事でより強固となる。
まぁ折れる時は折れるけどな、と身も蓋もない言葉もリカードは付け足した。彼の言葉には苦笑するしかない。
「ですが、本当に剣で良かったのでしょうか。ロゼッタ様は女性ですし、やはり装飾品の類でも良かった気がします」
話し合いの際剣に賛成したとはいえ、実際にロゼッタが腰に剣を差している姿は違和感が拭えない。
シリルが首を傾げていると、ロゼッタは首を横に振った。
「ううん、私剣で良かったって思ってるわ」
例え祝いの品が剣以外の物だったとしても彼女は喜んだだろう。祝ってくれる気持ちが嬉しかったからだ。
しかし剣を与えられた事で、これから彼女は選択する事が出来る。
「ずっと守られてばかりで居たから……これで私も戦える。強くないし、足手まといになるのは分かってるけど、ちゃんと皆と並べる。守られてばかりじゃなくて、守れる。だから私は剣で嬉しいわ。今度は私がみんなを守れるくらい頑張るから」
歯痒い思いをしたのは一度や二度ではない。決して強くもない。
それでも剣をとる事で何かが変わるならば、ロゼッタは握ろうと思った。これから彼女はこの国の王女として、国民を守るべき時が来る。殺す為ではなく守る為に。
それに今彼女を囲む人達は大切な人達だ。友として守りたい、そう思える。
「与える時期が少し早かったかもねー」
そう言って苦笑したのはリーンハルト。うーん、と頬を掻いていた。
「これでは立場が無いですね、全員」
「うむ」
「え? どういう意味……? 私変な事言った?」
ロゼッタがきょろきょろと周りを見ると、皆複雑そうな表情をしていた。今本心を言ったというのにそんな態度を取られるとは思っていなかった。
理由を知りたくて聞いても皆答えない。
「さーて、時間だしそろそろ馬に乗ろうかー」
「そうですね」
そしてリーンハルト、シリルと続々とそれぞれの位置に戻っていく。ちょっと待って、と制止の声をかけるがスルーされてしまう。
呆然と遠ざかる背中を見ていると、横に、リカードが立った。
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