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「……?」
困惑しながらロゼッタはその棒状の物体を受け取った。
リカードが軽々しく扱うものだから余程軽いのかと思っていたが、意外と手の平にはずっしりと来た。しかし重いと呻く程ではなく、逆にこの重量が手に馴染んでいた。
布越しでも分かるゴツゴツとした感触。すぐに金属製の物だと分かった。
「なに、これ……?」
「開けば分かる。今のお前なら似合わなくもないだろ」
「どういう意味よそれ……」
皆が見守る中、恐る恐るロゼッタはしゅるりとその布を解いた。
シリルはにこにこと、リーンハルトはニヤニヤと笑っており、リカードはしかめっ面。アルとノアは相変わらずの無表情で、ローラントは真顔。
中身に関しては全く予想が出来なかったが、その中身を見た瞬間ロゼッタは目を丸くした。
「これ……剣…………?」
状況がよく飲み込めないロゼッタは剣と皆を交互に見比べる。
剣術の訓練で使うような木製や鈍らではない、本物の剣。黒い鞘に収まっているが、細長い刀身の一般的なロングソードだ。長さはあるが細長く、刃が肉薄で軽い。重量を増してしまう装飾類もほとんど無く、一見機能的でシンプルな剣だった。
「これ、誰の剣……?」
「誰のってロゼッタお嬢さんのだよ。俺らから、ささやかながら祝いの品という事で」
「……!」
予想だにしていなかった。いや、彼女に渡されたのだから彼女の物だという事は薄々気付いていた。
しかし、父王からのプレゼントではなく、皆からというのは予想外だったのだ。
「ロゼッタ様。自分とローラント、違うもの。これ」
アルブレヒトが目配せし、ローラントが手にしていた包みを開ける。
中から出てきたのは革製の剣帯。帯の内側が赤く、外側が黒い。金色の止め金具にはアスペラルの紋章。派手な品ではないが、きっとこの剣と合うのだろうと思った。
いつの間にこんな物を準備していたのかはロゼッタは知らない。だが、彼女の為だけに用意してくれたその気持ちが嬉しい。何より、今ではここに居ることの当たり前さと、認められている事が感激する程だった。
このアスペラルに来て、こんな日を迎えられるとは思っていなかった。
「あり、がとう……みんな……!」
剣と剣帯を抱き締めながら、じんわりと目頭を熱いものが濡らした。化粧がとれてしまうと慌てて堪らえ、ロゼッタは精一杯の笑顔で応えた。
「ほら、ロゼッタお嬢さん、折角だから腰に下げてみなよ」
「あ、うん!」
剣を一時的にシリルに預け、ロゼッタは剣帯を腰に巻き付ける。衣装に対して違和感なんて一切ない。元々この剣帯も衣装の一部だったかのように錯覚してしまう。
そして剣を剣帯からぶら下げた。
剣を腰から下げるなど、騎士や兵士のする事だと思っていたせいか、自分がこうして着けている事に気恥ずかしさがある。普段は感じない腰の重みが、より鮮明に彼女の立場を自覚させた。
「まぁ悪くはないんじゃないか? これで多少は見栄えもいいだろ。先の戦いの凱旋するというのに腰に剣の一本も差さないのでは話にならないだろ」
「リカードはああ言っていますが、ロゼッタ様への祝いの品に剣の案を出したのはリカードなんですよ」
「……シリル、余計な事は言うな」
にっこりと呆気なくバラしてしまうシリルに、リカードは肘で彼を突く。はははっと愉しげにシリルは笑っていた。
最初ロゼッタへ祝いの品を皆で渡そうと提案したのはリーンハルトだった。彼の案では、女性なのだからと貴金属類や衣服などを考えていた。しかし、リーンハルト、シリル、リカードで話した際に剣という提案が出たのだった。
いくら姫とはいえ、馬に乗り正装で凱旋するのだから剣がなければ格好が付かないというのが彼の言い分だった。
「そんで、リカードが城下町で腕のいい職人知ってるって言うから紹介して貰って、頼んでたんだ。結構無理言って作って貰ったんだよね」
気付けば登城まで一ヶ月を切っていたのだ。無理を承知でリカードが頼み込み、急遽拵えて貰ったという。
「……それじゃあ騎士長ばっかり頑張ったみたいじゃん。姫様、僕も頑張ったんだよ」
何をどう具体的に頑張ったかは分からないが、拗ねた子犬の様にノアは不満気に言った。あからさまに褒めろと言っているようなものだ。
「あら、そうだったの。ノアもありがとう」
「姫様……分かってないでしょ。その剣、魔術かかってるのに」
「え!? これ魔術かかってるの!?」
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