アスペラル | ナノ
5



「……またノアがあいつに何かしたのか?」

 ノアには前科がある。最近のノアの行動を見ていると、何かやらかしたとしたらロゼッタ絡みなのは容易に想像がついた。
 容易に想像がつくからこそ、最近ではもう何が起きても驚かなくなったのが正直な感想だ。最初の頃はあのノアが他人に恋愛感情を抱いた事に対しては、流石に驚愕したが。

「そんな感じです」

 溜息混じりに尋ねてきたリカードに、シリルは苦笑しながら頷いた。

「それは濡れ衣だよ騎士長さん。僕まだ何もしてないし。姫様に好きだって言おうとしただけなのに、軍師さんが口塞いだんだよ」

「何かしようとはしてるじゃねぇか」

 自分に非は決して無いと言いたげにノアは口を尖らせて言うが、リカードは一蹴した。きっとその時そこにリカードが居れば、リーンハルトと同じ行動をしたであろう。
 しかし、意外なのはリーンハルトの行動についてだ。普段から彼女に対して散々セクハラ紛いの行動――彼にとってはスキンシップをとっており、先日は誰が誰を好きになっても構わないという発言までしておいて、止めるとは思っていなかった。彼ならば放置すると思っていたからだ。
 自分の事は棚上げか、と思ったがリカードは口に出さなかった。こんな時に話をややこしくする様な馬鹿な真似はしたくはない。

「ところでリカード、アレちゃんと持ってきてくれた?」

 わざと話を変えるように、リーンハルトはリカードに話を振る。まだ話は終わってないとノアは不満気な表情を浮かべている。

「ああ……持ってきたぞ」

 片手に持っていた布に包まれた棒状の物体を軽々と上げる。それを見たリーンハルトは満足気に笑った。

「自分まだ見てない」

 中身を知っているアルブレヒトはぽつりと漏らす。

「ああ、そういえばアルブレヒトはそうでしたね。後から見られますよ。とても良い出来です」

「出来が良すぎて逆に浮かない事を祈った方がいいかもな」

 鼻で笑いながら悪態をつくが、本心で言っているわけではない。昔の様に悪意があるわけでもなく、つい憎まれ口を叩いてしまうのはある意味心を許した証拠でもあった。

「そういえばアル、ソッチの方はどう? ローラントくんからは間に合うって聞いてたんだけど」

「大丈夫。今、受け取り行っている。もう少しで戻ってくる」

 未だに姿を見せないローラントに不安を感じるリーンハルトだが、アルブレヒトは大丈夫だと力強く頷いた。
 アレやソッチ等色々と不穏にも聞こえるこの話題、皆内容は知っていた。知らないのはこの場に居ないロゼッタだけであり、皆一様に一種の楽しみを感じていた。
 彼女はどんな反応、表情を見せてくれるのだろうか。驚くか、笑うか、泣くか、きっとどんな反応を返してくれたとしても嬉しいだろう。
 主と呼ぶには幼く、友人と呼ぶには恐れ多い彼女だが、そんな彼女だからこそこうして今日を迎えられたのだとシリルやリーンハルト、リカードさえも思っている。
 おーい、とシリルの名前が呼ばれた。

「シリルさん、馬連れて来ましたよ。あれ? リカードいつの間に戻ってたの?」

 そこへ、今日乗る黒い馬の手綱を持ったロゼッタが歩いて戻ってきた。白い衣装に映える黒い馬、王がこの日の為にと急いで用意させた名馬だ。その横には、ローラントの姿も。
 どうやら馬を連れて来る最中に、所用で出掛けていた彼と遭遇し、一緒に戻ってきたらしい。彼も何やら腕に包み紙を抱えている。

「今戻ってきたばかりだ」

 そしてリカードはじっとロゼッタを見下ろした。他の面々は散々見て褒めちぎってきたが、彼がロゼッタの正装を見るのは今が初めてである。
 周りは褒めてくれたものの、リカードの反応は一番予測出来ない。昔は顔を合わせれば互いに冷たい言葉を返していたが、最近はそういう事もめっきり減った。むしろ仲は良好と言える。
 だが、果たして素直に褒めるのだろうか。むしろ女性の衣服に対し、彼は褒め言葉を知っているのか。
 謎の緊張感が走った。

「……まぁ馬子にも衣装とまでは言わないが、イマイチ足りないな」

 淡々とした感想が告げられる。褒められてはいないが、貶されてもいない。喜ぶべきか悲しむべきか分からない辺りだが、それよりもロゼッタには「足りない」と言われた事の方が重要だった。

「何が……!?」

 正装に関しては本当に今まで縁がなかった村娘だ。もしや何か作法を間違えたのだろうかとロゼッタは自身の体を見下ろした。
 しかし着付けはグレース達が一から十までしてくれた。これ以上何が欠けていようか。

「リカード、あなたは全く……素直な感想は言えないのですか?」

「これも素直な感想だろう、シリル。どうせ俺以外の連中は無駄に賞賛してるだろうから、一つくらいこういう感想があっても良いだろ」

 彼女の正装に対する皆の反応はリカードでも想像出来た様だ。
 図星過ぎて反論の言葉も出なかった。
 ちなみに、馬を連れて戻って来る最中に遭遇したローラントだが、彼も例に漏れずロゼッタの正装を褒めていた。いや、賞賛、絶賛、讃美どの言葉も言い表せない程だった。崇拝という言葉しか最早出てこない。

「で、足りないとすると……やっぱアレ?」

 ニヤニヤと笑いながらリーンハルトはリカードに肩に腕を回す。
 ベタベタと気持ち悪い、と罵りながら彼を引き剥がし、リカードは持っていた布に包まれている長い棒状の物体をロゼッタに向かって突き付けた。

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