アスペラル | ナノ
4



「似合ってるか似合ってないかで言うと……」

「言うと?」

 ごくり、とロゼッタは息を呑んだ。
 結構気に入っていたこの正装。もし似合っていないと言われれば相当ショックだろう。しかも今更衣装を変えられるわけもない。

「……似合ってるとは思う。軍師さんがさっき胡散臭い言葉並べ立ててたけど、あながち間違いじゃないと思うし」

 似合っている。その言葉にロゼッタは胸を撫で下ろした。
 胡散臭いってどういう意味かな、と話を聞いていたリーンハルトが頬を引き攣らせるが、ノアは聞いちゃいない。だがあの笑顔で自在に言葉を並べ立てられる様には、確かに胡散臭さは感じていた。シリルもアルブレヒトもこくりと頷いている。
 周りなど眼中にないノア。ロゼッタを見下ろしながら、言葉を続けた。

「でも僕は、いつもの少し地味な服で飾りっ気も化粧っ気もなくて、お節介で少し騒がしい姫様の方がいい」

「それは、褒めてないわよね……?」

 褒められたのも束の間、今度は貶されているのかと疑う様な言葉が。ノアは首を横に振って違うと言うが、聞いていれば良い意味でとれる言葉がない。喧嘩を売っているのだろうかと勘違いしそうな程だ。

「そういう格好されると……姫様は『姫様』で、みんなのモノだって言われてるみたい」

 ノアはぽつりと言葉を漏らした。それこそが彼の本音であり、隠しきれていない独占欲だった。いや、元より彼は隠す気はないのだろう。
 ロゼッタが彼の気持ちに気付けば彼にとっては好都合。
 しかし彼女は首をひねり、きょとんとした表情で彼を見上げていた。

「私が姫なのは前々からそうだけど……? みんなのモノ?」

 やはり彼女は気付いていない。
 それは彼女がノアが抱いている感情を知らないからでもある。一度は好きと言ったものの、流されてしまった。
 彼女に分からせるには再び言うしかない。

「……だから、僕は姫様が」

「はいはい、そこまで。もう時間だから準備しようかー」

 何かを言いかけていたノアの言葉、突然背後から伸びた手により塞がれた。その後もごもごっと音が聞こえたが、ロゼッタの耳には言葉として届かなかった。
 恨みがましい目でノアが背後を見ると、呆れ顔のリーンハルトが彼の口を塞いでいた。

「あ、ロゼッタ様……申し訳ありませんが、あちらに繋いであるロゼッタ様の馬を連れて来て下さいませんか?」

「? 分かりました」

 気を利かせたシリルは手頃なお使いを考え、ロゼッタに一つ頼んだ。今はただ彼女をこの場から遠ざけるのが一番。
 不思議そうな表情をしつつもロゼッタは裾を翻し、自分の乗る馬を取りに戻った。
 はぁ、と彼女の背を見送って溜息を一つ吐いた。そして今の現状を眺め、どうしたものかと考える。止められた事に対し苛立つノアと、何かしら意図があって止めたと思われるリーンハルト、そして複雑な感情を抱いていそうなアルブレヒト。
 そこでシリルははっとした。こんな面倒な所に居らずに、自分もロゼッタとこの場を離れれば良かったと。
 しかし、この状況を放置するわけにもいかなかったのだから、結局彼がここを離れられる筈もない。

「……なに? 軍師さん何で邪魔するの?」

 口を塞いでいたリーンハルトの手を、ノアは払い除けた。

「何でって……当人同士の問題に口出すつもりはなかったけど、あまりに一方的なのもどうかと思ったの。それに時間が迫ってるのも本当だし、こんな所で公開告白とかこっちが恥ずかしいから止めてよね」

 若さは素晴らしいけど、とリーンハルトは呆れていた。

「じゃあ軍師さん達が耳を塞いでればいいよ。それにすぐに済ませるつもりだけど」

 ノア自身、告白が誰に聞かれてようがどうでもいいらしい。実際、彼女へ気持ちを言おうとした時にはリーンハルト、シリル、アルブレヒトが近くに居た。それにも関わらず言おうとしたのは、ノアの眼中には彼らが入っていなかったからだ。
 一つに集中すると他が見えなくなるのはある意味天才的だが、自己中心的でもある。
 今更その性格を矯正するのは難しい事は、リーンハルトもよく知っている。

「……誰が誰を好きになってもとやかく言う筋合いは俺にないけど、ロゼッタお嬢さんを困らせる様な事だけはしないように」

 既に彼がいくつかやらかしているのはリーンハルトの耳には入っている。アルブレヒトと一緒になって腕の引っ張り合いをした件など。
 彼自身色々言うつもりはないが、そろそろ釘を差さなければいけないのは明白だった。

「おい、今戻ったぞ。何かあったのか?」

 そこへ丁度良くリカードが戻ってきた。手には何やら布に包まれた細長いものを持っており、彼らが微妙な空気を漂わせているのは肌で感じ取れた。

「えっと、その……お帰りなさい。色々、あったんです」

「は?」

 説明を求められたシリルは答えに窮し、疲れた様な笑みを浮かべた。
 中央にいるのはノアで彼と対峙するリーンハルト。今まで居なかったリカードだが、ノアがまた何かやらかしたのだろうと見当はついたのだった。
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