アスペラル | ナノ
26


「え? いるのラナ? だれ? 私の知ってる人?」

 最近のラナの友人関係に詳しくないロゼッタはストレートな聞き方だった。オブラートに包むというやり方を彼女は知らないのだ。距離を詰めながら、純粋な好奇心でロゼッタは覗きこむ。
 言葉を詰まらせるラナは首を横に振りながら否定するが、今度は耳まで真っ赤だ。
 言葉よりも表情や仕草の方が雄弁である。

「あら、ラナってば……最近仲いいじゃない。アルとシリル様以外で初めてじゃないかしら、あんなに喋っているの」

 逆に詳しいエリノアはくすくすと余裕の笑みを浮かべる。

「ち、ちがうんです……! ただ、尊敬してるというか、雰囲気が落ち着くというか……だ、だから本当、ローラントさんはそんなんじゃないんです!」

「誰もローラント様とは言っていないでしょう、ラナ」

 気付いた時には遅かった。あからさまな罠で、墓穴を掘ってしまった事をラナは後悔した。
 エリノアの示した人物は確かにローラントの事だった。しかし名指ししていなかったのだから、冷静になっていれば上手くかわす事だって出来た筈だ。
 両頬を押さえながら「ちがうんです」と消え入りそうな声で何度も答えるが、既に説得力がない。ラナ自身、全身が沸騰しているかのように熱いのは羞恥から来るものだと分かっている。

「し、知らなかったわ……どういう事? いつの間に?」

 ラナとローラントが親しい事を知らなかったロゼッタは、驚きを隠せなかった。正直二人には全く共通点を見出だせない。

「あら、姫様は知らなかったのね。二人は一緒に浴場の清掃までする仲なのよ」

「ね、姉さん……!」

 ラナはアワアワしているが、ロゼッタは首を傾げていた。二人で浴場の清掃をすると仲が良いととられるのだろうか。それとも使用人達の間ではそれが好意を示す行動の一つなのか。
 よく分からないが、とりあえず仲が良いという事はエリノアの口振りで分かった。
 だが、ローラントとラナに接点があったとは意外だ。歳は七つも離れているし、リカードの件もある。リカードが聞けば卒倒しそうな内容だ。いや、リカードならば卒倒する前に鬼の形相でローラントを斬り殺しに行くだろう。

「ラナ、もう少し積極的に行くべきだわ。ローラント様は誠実だけど、その辺り鈍そうだもの。あと、何考えていらっしゃるのか読めないわよね」

「だ、だから姉さんちがうんですっ……! それに、鈍くは…………ローラントさんはとてもお優しい方ですし、私の大したことない話でもいつも真剣に聞いてくれて……」

 きゃいきゃいと女子二人で騒いでいる光景が面白くて、ロゼッタは笑っていたが、内心胸の引っ掛かりを覚える。
 二人は知らないだろうが、ローラントは人間だ。アルセル王の下に居た元騎士。その手で何人ものの魔族を斬ってきた。こんなに運命が狂わなければ――ロゼッタが彼の人生を狂わせなければ、ローラントはラナに剣を向けていたかもしれない立場だ。

(うーん……大丈夫なのかしら)

 内心は応援してあげたい。きっと天然なローラントとラナはいい組み合わせだとロゼッタは思う。
 だが、魔族と人間が果たして結ばれるのかは彼女自身知らない。そんな話聞いたことがないのだから、諸手を挙げて賛成は出来なかった。勿論、表立って反対はしないが。

「……さま……ひめ…………姫様?」

「え、ああ、ごめんなさい、どうしたのエリー?」

 ずっと考え事をしていたせいか、気付けば心配そうな表情でエリノアに顔を覗きこまれていた。

「もうそろそろお休みになりましょうか。消灯時間ですし、またグレースに叱られてしまいますわ」

「え、もうそんな時間?」

 ずっとベッドの上で喋っていたが時刻は既に寝る時間を過ぎていた。
 楽しくてもっと騒いでいたいという気持ちは三人も一緒だった。しかしロゼッタは翌日のラナとエリノアの仕事の事を考えれば、遅くまで付き合わせるのも悪い気がした。一方二人も、姫君であるロゼッタを友人として接していても、所々で使用人として区切りをつけなければいけない。

「このお話はまた今度にしましょう。ラナの詳しい話も聞かなくてはいけませんし」

 ね、とエリノアがイタズラっぽく笑いながら方目を瞑る。
 その横ではラナが赤面しながら、複雑そうな表情を浮かべていた。また三人で恋の話をしても、ラナが格好の餌食になるのは目に見えているからだろう。しかしまたお泊り会が出来るならばしたいという気持ちもラナにはあった。
 エリノアは結構容赦がない。根掘り葉掘り聞いてラナが恥ずかしい思いをしている姿が容易に想像できる。
 だが、ロゼッタは「そうね、また今度ね」と笑った。
 もうすぐで彼女達は本城へ行く。そうすればこうしてお泊り会する事は出来ないと分かっているが。

 そして三人は名残惜しく思いつつも、お互い「おやすみ」と声を掛けてベッドに潜り込んだのだった。

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