アスペラル | ナノ
25


 だが、ロゼッタ位の年頃となれば結婚を考えてもおかしくはない。彼女より一つ年下のラナにさえ、前は縁談話が来ていたのだから。女性ならば、早い者では既に結婚しているだろう。
 しかもロゼッタが王位を継ぐとは決まっていないが、それなりの立場や責任がある。一生を独身で過ごすわけにもいかないのだ。

「ほ、ほら! そういうエリーとかラナはどうなの!?」

 ふと気付けばずっとロゼッタの事ばかり話していた。それに気付いたロゼッタはもう終わりと話の矛先を変える。

「そうですねぇ……私は好きな殿方はいらっしゃいませんわ。募集中、と言った方がいいかしら」

 エリノアは臆面もなくアッサリと告げる。少しは照れた姿も見れるかと思いきや、平然と言っていた。
 これ位余裕を持ちたいものだとロゼッタもラナも尊敬の眼差しでエリノアを見た。

「エリーなら良い人いっぱいいそうだけど」

 実際エリノアは上品な雰囲気で、綺麗な顔立ちをしている。年が二つしか違わないらしいが、ロゼッタよりもずっと大人っぽく感じる。多分顔立ちだけではなく雰囲気や身のこなしがそう思わせるのだろう。
 数ヶ月共にいるが、よくよく考えてみるとロゼッタは彼女の事をあまり知らない。
 成人しているというのに未だに未婚で働き続ける理由や家の事だ。ラナは実家が貴族で、グレースは平民だが実家が豪商だと聞いた事がある。そう考えるとエリノアも家が貴族なのだろうかとロゼッタはずっと疑問に思っていた。

「そう言って貰えるのはとても嬉しいわ」

「そう言えばエリーってどうして城勤めを選んだの? あ、言いたくない事情があったら言わなくてもいいからね」

 慌ててロゼッタは両手を振った。ついぽろりと口から出てしまったが、誰にでも言えない事はある。深く考えずに気軽に踏み込んでしまった自分を悔いた。
 するとエリノアは苦笑する。

「姫様、そんなに大した理由はありませんのよ。私が城勤めを始めたのは勿論、結婚相手を自分で探すためですの」

「結婚相手を……?」

 意外と情熱的理由だとロゼッタは息を呑む。自分の恋愛関連の話は気恥ずかしさと不慣れから乗り気ではなかったが、人の話となると別だ。
 瞳をキラキラさせながらエリノアの次の言葉を待った。

「城勤めの女性なら珍しい話ではないですわ」

 そう使用人の女性の多くは教養を学ぶ為であり、そして一種の出会いを得る場でもある。城に出入りする者は多いが大抵のものは身分のはっきりした人物だ。それも騎士や文官、大臣など高位の者もいる。
 運良く目に留まって結婚まで漕ぎ着ければ以上の成功ははない。女性側の両親とて家同士の結び付きなどを考えれば万々歳というわけである。
 勿論ラナのように家訓や使命があって仕える者も少なくはないが。

「私の実家は……王都よりずっと北で宝石商を営んでおりまして、グレースと同じ豪商なのです。ですが強欲な父に愛想を尽かして数年前に家を飛び出してここに。自分で仕事をしながら生きて、自分で結婚相手を決めたかったの」

 あのまま暮らしていれば、いずれ父の思い通りになってしまう。それを危惧したエリノアは自由を求め、一人で家を飛び出したという。
 家が商家だった事もあり、幸い知人のツテが彼女にはあった。そして、こうして城勤めができている。

「す、すごい行動力ね……家と連絡は?」

 ロゼッタとはまた違った方向の行動力だろう。彼女には決して真似出来そうになかった。
 自由と素敵な旦那を求め家を飛び出したなんて、まるで物語を読んでいるかのようだ。

「たまに手紙を出しますけど、ずっと帰ってないですわ。次帰る時は伴侶を見付けた時ですから」

「姉さんは行動力も決断力もあってすごいですよね」

 他人事だからか、ラナはふわりと笑いながら枕を抱き締める。

「ラナだってそろそろ結婚考えても良い頃でしょうに……」

「でも、私男性とお話とかあまり得意じゃないですし」

 つまらないから近寄っても来ないんですよ、とラナは苦笑した。
 しかし彼女がつまらないから男性が近寄らないわけではない。その後ろにいる、彼女の兄である黒獅子と呼ばれる騎士が怖いから遠巻きにしているのだ。
 実際ラナは可愛らしい顔をしている。家柄も良く、気立てもいい。是非お近付きになりたいと思う城勤めの男性は多いのだ。だが一歩近付けば、黒い獅子が捕食寸前の眼で睨んでくる。
 そんな環境下だ育ったラナは、無意識の内にあまり男性と関わりを持たない生活を送っていた。

「ラナは好きな人いないの?」

 この流れからいって、ロゼッタが聞くのは当然であった。軽い気持ちで聞いたつもりであったが、みるみるうちにラナの顔が赤くなっていった。

「い、いいいいいいないです……!」

 過剰とも言える反応に、絶句するロゼッタとエリノア。二人は一つの確信を下に、顔を見合わせた。
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