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「どうしてって聞かれても……」
何と答えていいか分からないロゼッタは困惑の表情を浮かべた。
大切な人達だとは言えるが、そこに恋愛感情があるかは疑問だ。どちらかと言えば皆に抱いている感情は友愛に近いものだろう。もしくは家族の様な感情だ。
「普通にみんなのことは、す、好きだけど」
ストレートに友愛を示したことがないロゼッタは、気恥ずかしさから少しだけどもった。
「あら、意外ね……あれだけ一緒にいるのに」
そうだろうか、とロゼッタは首を傾げながら自分の一日を振り返った。
朝起床して支度をするとアルブレヒトかローラントが部屋まで迎えに来て、一緒に広間へ。そして皆が揃った状態で朝食を食べ、その後はシリルやリーンハルト、リカードの授業をしてもらう。昼食後はまた授業をするか、時間に空きがあればアルブレヒトとお茶をしたり、ノアの様子を見に行ったりしていた。
確かに、よくよく考えてみると誰かしらとは一緒に居る気がする。
それが普通のこととなっていたせいか感覚が麻痺していたのだろう。
「じゃあ、ちょっとイイなーと思うことはないのかしら?」
「うーん……ないと、思うけど……」
そもそも初恋すらまだのロゼッタには、どう思ったらそれが恋愛感情なのかすら分からない。幼い頃から教会で、シスターの手伝いや小さい子達の面倒を見てきたせいか、その面については疎い部分はあるのは彼女自身分かっている。
だが、あのままオルト村にいても、きっと縁談話がきて知らない誰かと結婚していただろう。恋愛すらまともにせず。
「そうねぇ……じゃあリカード様とかはどう?」
「え?」
「ね、姉さん!?」
突然敬愛する兄の名前が出たせいか、ぎょっと驚いた表情をしたのはロゼッタだけではなかった。
「ラナ、もし姫様とリカード様がご結婚されたら嬉しくないの?」
「ええっと、その……」
答えに窮しながら、ちらりちらりとラナはロゼッタの表情を伺っていた。本人目の前にして言いにくいのだろう。
ロゼッタは苦笑しながら「正直に言っても怒らないから」と声を掛けた。
今のラナの心情を思えば、きっと複雑だろう。敬愛する兄とまだ日の浅い友人関係を築いているロゼッタ。その二人がもし結婚したら、などおかしな質問だ。
「私は……その、お兄様とロゼッタさん一緒になられたら嬉しい、です」
「ラ、ラナ……!?」
これはロゼッタも予想外だった。てっきり嫌だと言われると思っていたが、まさか好意的に言われるとは。
面白そうな展開になってきたと言わんばかりに、エリノアの表情が明るくなった。
「まぁ、ラナってば」
「だ、だって大好きな二人が一緒になったら嬉しいですし。ロゼッタさんと姉妹になれるのも、嬉しいなって……」
照れながら言うその表情も、言ってくれた内容も可愛らしくて、ロゼッタはうっかりラナにときめいてしまった。リカードと結婚は考えられないが、確かにラナと姉妹になるのは凄く良いと思ってしまったのも事実。
結婚するならリカードじゃなくてラナと、とロゼッタは言いたい位である。
「最近リカード様と姫様は仲が良いみたいですからね。前は壁があったのに」
くすくすとエリノアが笑う。隠すつもりはなかったが、どうやら使用人達にもロゼッタとリカードの不仲は筒抜けだった様だ。
二人の仲が変わったのはアルセル公国の一件があってからだ。それ以来お互いを認め、今では順調に友人関係を築いている。
「えっと、確かに仲は悪かったし、今は良くなってきたけど……別に普通の友達よ? 誤解だからね!」
変な勘ぐりをされては堪らないと、ロゼッタは全力で首を横に振る。
「あら……身分も力も家柄も申し分なくて、お似合いですのに。それに訓練姿が格好良いと、私達女性使用人の中では隠れて人気ですよ」
「だ、だからね、普通の友達、もしくは主従関係よ……」
あまり主従関係という言葉は好きではないが、その言葉の方がより二人の仲を表現しやすい。一見主従関係とは程遠いが、一応表向きにはリカードがロゼッタに仕えているという形なのだから。
エリノアの言う通り、確かにリカードが剣を振るう姿は騎士らしく格好良いという感想も頷ける。黙っていれば精悍な顔立ちだし悪くもない。だからといって、恋愛感情は無いが。
「では……リーンハルト様はいかがです?」
まるで売るかのような軽い口調だ。リカードが駄目ならばと、簡単に次はリーンハルトへと話が転換された。
「美形ですし、平民ですけどご実家もお金持ち、地位も軍師と高位。性格は少し目を瞑ればいいだけですし」
「最後は褒めてないわね……ハルトも、ただの友人よ」
リーンハルトが美形なのは認めよう。正直言えば、初対面の時に格好良いと素直に思ってしまった事もある。だが、問題は簡単に身体に触れてくる所と軟派な所。
大切な友人とは思っているが、彼にも恋愛感情は無いと言い切れる。
「あら、でもリーンハルト様は姫様のこと大切になさってるわよね?」
エリノアがラナに話を振ると彼女もこくりと頷いた。
そんなに大切にされているという実感はないロゼッタは、そうだろうかと怪訝な表情を浮かべた。
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