アスペラル | ナノ
6


 生活に必要な分の衣類を買い込み、ロゼッタ達は店を出た。
 日常生活で必要な分を一気に買い込むとなかなかの量だった。ローラントの両手は見事に紙袋で塞がっている。
 ちなみに余談だが、ローラントは下着まで適当過ぎた。しかしロゼッタ自身は彼のパンツまで選んでやるつもりはないので、そこは彼の自主性に任せたのである。例えローラントが斬新なパンツを履いていようと関係ない、とロゼッタは放棄した。パンツの柄を選んでやるのが主人の役割ではないのだ。
 それから一行は雑貨屋などを巡り、着実に必要な物を揃えていった。大体揃えたのはロゼッタだが。

「ふぅ、結構買ったわね」

 そして三軒目の店を出て、ロゼッタは空を仰いだ。陽はまだ傾いていない。

「男の人って何が必要なのか分からないから苦労したわー」

 ふらふらと露店を見渡しながらロゼッタは適当に歩む。目的の場所がない為、道なりに、そして人の流れに沿って進んでいた。
 荷物はローラントとアルブレヒト、二人が分担している為彼女は手ぶらであった。

「これからどうする? 飲み物でも飲んで少し休憩しましょうか?」

 ロゼッタは後ろを歩く二人を振り向く。もう彼女の後ろが二人の定位置だった。

「そうだな、大分歩いてロゼもアルブレヒトも疲れているだろう」

「うむ、賛成」

 帰る前に一休みしようという事となり、ロゼッタ達は町の中央部にある広場へ向かう事にした。広場に行けば休む場所もあり、軽食も出店で売っている。
 疲れていた体も、休憩という単語で元気になる。早く行きましょう、とロゼッタは軽い足取りで向かった。
 広場までは大きな通りを通らなければ行けない。人ごみに揉まれながら広場に向かっていると、ロゼッタの肩は思いっきり誰かに強打した。彼女の体はバランスを崩しそうになるが、咄嗟にローラントが支えてくれたので事なきを得る。

「いったー……」

 しっかり歩きなさいよ、と文句の一つでも言ってやろうかと思ったロゼッタは、肩を押さえながらぶつかった相手を見上げた。
 するとその相手は予想外にも見知った人物。深緑の瞳と目が合った。

「ノア……!」

「……姫様」

 ノアもラインベルに居るかもしれないとは言ったが、まさかこんな大通りで出会うとは思っていなかった。驚きを隠せないロゼッタだが、ノアも珍しく驚きで目を見開いていた。
 人通りが多いところで立ち話も出来やしない。ロゼッタは半ば無理矢理ノアも連れて広場へ向かったのだった。






 広場に到着して早々、ロゼッタとノアはベンチに座った。帰りたい帰りたいと駄々をこねていたノアだが、逃げられないと悟ったのか今や大人しい。
 飲み物を買ってくると言って、アルブレヒトはロゼッタ達の側から一度離れた。

「ノア、珍しいわね。ここで会うとは思わなかったわ」

「……奇遇だね。僕もだよ」

 淡々と喋るノアはどこか上の空で、ロゼッタを見てはいなかった。
 そんな彼の反応はある意味通常なので、彼女はノアの足の爪先から頭のてっぺんまでまじまじと見つめた。服は清潔なものに変えられ、普段はぼさぼさの髪もしっかりと後ろで縛っている。
 言わなくても外出する時はちゃんとした格好をするという事を知り、ロゼッタはまるで母親の様に安堵した。

「ノアは買物?」

「そんなとこ。薬の材料とか無くなってたから」

 彼の手元を見ると、見ただけでずっしりとした重量はありそうな茶色の紙袋が。このラインベルにある魔具店や薬草屋などで材料を補充していたらしい。

「へぇ、ちゃんと外に出ることもあるのね。材料も使用人に揃えさせるのかと思ってたわ」

 失礼な、と言いたげにノアは眉を少しだけ寄せるが、それも仕方ないと言えよう。彼の普段の生活を知っているならば特に。

「だって適当なの買って来られたら困るし。品質とか見るなら、やっぱり自分で来ないと」

 やはり研究だけは違う様だ。真剣で、あのノアでも外に出る程懸命にしている。その点はノアは紛うことなきプロである。
 それだけ熱中出来る事があるのが、ロゼッタは少し羨ましいと思った。

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