アスペラル | ナノ
5



***



 程なくして、ロゼッタ一行はラインベルへと到着した。数週間振りに来たわけだが、町の雰囲気は相変わらずだった。大通りに行けば賑やかで、露店が立ち並んでいる。
 つい先日までアスペラルは戦争をしていたが、この町に被害は無かったからだろう。戦争していたという暗い空気は一切無かった。

「ここがラインベルか……なかなか大きい町だな」

 馬車から降りたローラントは物珍しげに辺りを見渡し、ぽつりと感想を漏らした。

「でしょう。大通りに行けば色んなお店あるみたいだから、色々買えると思うわよ」

 一歩大通りから外れると、民家が広がっているので少し分かり難いのが難点だ。ロゼッタは一度この町で迷子になった事がある。少しだけ苦い思い出だ。
 ロゼッタとローラント、そしてアルブレヒトは大通り沿いを歩き出した。
 天気も良いので絶好の買物日和だ。しかし、町にいるのは行商のおじさんだったり、夕食の買い出しをしている主婦、若い旅人の男など。ロゼッタくらいの年頃の娘はあまり見かけなかった。
 少しだけそれが不思議だったが、ロゼッタくらいの年になれば家の手伝いをしていたり、結婚している子もいるだろう。

「さて、まず何を買いに行く? 服とか?」

 ロゼッタは後ろのローラントを振り返る。
 ローラントは身一つでこの国に来た。衣服は当然ない。今は辛うじて借りた物を着ているが。

「そうだな、いい加減衣類を揃えるべきだろう。適当な服屋で構わない」

「適当な服屋って言ってもね……」

 男性の服を取り扱う店は行った事がない上に、ローラントの好みが分からない。それに、この男の場合「好みは特にない」と言い出しかねない。
 アルブレヒトに聞こうにも彼は少し離れて歩いているので、雰囲気的にも聞き辛い。
 悩んだ挙句ロゼッタは適当に選んだ近くの服屋へ入ったのだった。




 そして服屋に来たものの、ローラントの服選びはかなり適当であった。

「ローラント、これはどう? 似合うんじゃないかしら」

「では、これで」

 ロゼッタは動き易そうかつ似合うと思ったものをローラントに片っ端から勧めた。それらをローラントは試着もせずに、購入を決めるのだった。
 片っ端から勧めるロゼッタの言う事を片っ端から聞いている様だ。
 ロゼッタは呆れてものが言えなかったが、彼がそれで良いならば良しとしよう、と何も言わなかった。幸いロゼッタが勧めているのは黒や白など無難な色のインナーや上着。きっとローラントによく似合うだろう。

「こう……もう少し、自分で着たいものとか、ないの?」

「ないな。ロゼが選んでくれる方が有難い」

 衣服に関して無頓着なのだろう。男性なのだから女性に比べれば仕方ないとはいえ、あまりにも無関心過ぎる。
 アルセル公国に居た頃は何を着ていたのかと問えば、毎日軍服だったらしい。

「アルはローラントにはどんなのがいいと思う?」

 店内をうろうろとしているアルブレヒトに、さり気なく彼女は尋ねてみる。
 彼女の問いにアルブレヒトは少し停止し、がさがさと近くの棚を漁った。彼なりに考えてくれるのは嬉しいが、その直後アルブレヒトが手にした衣服を見てロゼッタは硬直した。

「これ」

 白いシャツに赤い星の模様、七色のタイにワンポイントは両肩に付いてるぼさぼさの黒い羽飾り。付属の部品として青いバンダナが付いている様だ。
 何に使う衣装だ、と突っ込みたいのは山々だが、ロゼッタはごほんっと咳払いを一つした。

「本気で?」

「格好良いと思う」

 アルブレヒトは真顔で答える。これはボケているわけでもない。彼の瞳は至極本気だ。

「なかなか凄い服だな。センスが卓越している」

「……ローラント、本気で言ってる?」

「何がだ?」

 ローラントもふざけている様な素振りは見せない。アルブレヒト同様本気で言っている。
 今度アルブレヒトやローラントが服を買う時は、一緒に行って選んであげよう。絶妙なセンスの二人の為にはそれが良い、と心に決めたロゼッタであった。
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