アスペラル | ナノ
3


 折角貰えた半日の休みだ。有意義に過ごしたいものである。
 どうしようかしら、と嬉しそうな笑みを浮かべながらロゼッタは午後の過ごし方を考えた。
 何かしたくて体がうずうずしているが、料理などをするとグレースに怒られる。読書は他の日にも出来るので、折角だから違う事をしたい。天気が良いので日向ぼっこでも良いが、出来る事ならば活動していたい。
 しかし時間の使い方を考えるのがこんなにも楽しいなんて。この考える時間すらロゼッタはわくわくしていた。

「失礼する」

 すると、部屋に誰かが入って来た。
 扉の方を向くと朝から姿を見せていなかったローラントが立っていた。

「あら、ローラント。どこに行ってたの?」

 名目上ロゼッタの侍従だが、その行動は一切制限していない。離宮内はあまりにも安全なので、ロゼッタの護衛よりもローラントは専ら掃除などをしている事が多い。

「今日は倉庫の整理をするから男手が欲しいと言われてな。手伝いをしてきた」

「そうだったの。お疲れ様」

 彼がこの離宮に来てまだ二週間と少ししか経っていないが、あまりにも早く溶け込んだ。最初は彼が「人間」かとバレないか不安に思ったものの、それは杞憂に終わった。
 今では使用人達からも名前を覚えられ、時折廊下で普通に喋っているのを見かける。
 元アルセル公国騎士団長ローラントとは思えない姿だが、彼が今の生活も満更でもない様なのでロゼッタも今では特に気にしていない。

(早いわね……この前来たばかりかと思ったら)

 時の流れが早いというよりは、ローラントの順応性が素晴らしく早いのだろう。流石にロゼッタも離宮に慣れるにはもう少し時間が掛かった筈だ。
 そこでふと、ロゼッタはとある事に気付いた。
 ローラントが来てまだ二週間と少し。その間、離宮から出た事は殆ど無く、ローラントの身の回りの品はリーンハルトのお下がりや使用人に調達して貰ったものだけだ。時間があれば買い出しに行こうと言ったものの、未だそれは実現していなかったのだ。

「そういえばローラント。あなた、服とか日用品はまだ揃ってないわよね?」

「あぁ、軍師殿や他の方に譲って貰ったりしたものだけだな」

 丁度良かったわ、とロゼッタはぱんっと手を叩いた。
 買い出しを兼ねて近くのラインベルまで遊びに行くのも良いとロゼッタは思ったのだ。彼女の気分転換にもなるし、ローラントの生活に必要な物を買う丁度いい機会だろう。

「シリルさん、今日はラインベルまで行ってみて良いですか?」

「ラインベル、ですか……?」

 驚いた表情を浮かべ、シリルは少しだけ考える。本来ならば彼が判断していい事ではないのだ。
 いくら近場とは言え、状況が状況。ロゼッタ王女が居ると分かれば大騒ぎになるのは明白だろう。

「ダメですか……?」

 反対される気もするが、ロゼッタは上目遣いでシリルをちらりと伺う。
 シリルは困った様に苦笑した。
 最近のロゼッタは何となく、甘え方が分かってきた気がするのだ。それは悪い意味ではなく、前程ワガママを決して言わない良い子じゃなくなったという事。そしてシリルに対して信用、信頼しているという事である。

「本来なら軍師が決める事なのですが……夕方まで戻って来れますか?」

 そして珍しくシリルがいたずらっぽく笑う。
 つまりはリーンハルトが仕事から戻ってくるまでに帰ってくれば良い、と言ってるのだ。ぱぁっとロゼッタは表情を明るくし、力強く頷いた。

「はい! ちゃんと夕方までに戻ってきます。ローラントの入用の物を揃えたら」

 シリル自身甘い判断だとは十分分かっている。本来なら彼女の身を優先して止めるべきだろうが、ロゼッタの可愛らしいワガママ位なら聞いてしまうのだ。ロゼッタが歳相応に嬉しそうにしているのを見ると、彼もとても嬉しく思う。そういう事だ。
 それにラインベルは近場。そしてローラントが一緒だ。アルブレヒトも側近なのできっと一緒だろうから、大丈夫だろうと高をくくったのもある。
 そして、ロゼッタは室内に籠っているより外に出ている方が似あっているとシリルは思うのだ。

「軍師には内緒ですよ?」

 口元に指を立てるシリル。彼の真似をしてロゼッタも頷きながら口元で指を立てる。実際にはローラントもいるのだが、子供じみた秘密を共有した様で不思議と面白かった。
 ロゼッタは後ろに立っているローランを振り返る。

「ローラント、ラインベルに行くわよ!」

 半ば無理矢理、ローラントに意見を聞く事なく彼女は決断した。

「ふむ、ラインベルと言うと離宮から一番近い町か」

 ロゼッタの命令ならば喜んで行くローラント。当然、異論は無かった。
 使用人か誰かに聞いた知識をローラントは手繰り寄せる。ラインベルについては話くらいは聞いた事があるらしい。それならば話は早い。

「時間は限られてるんだから急がなきゃ。アルにも声掛けなきゃね」

 そしてロゼッタ王女の久々の休日は「近くの町へ買い物」で決まったのだった。そんな彼女に付いて行ったのはローラント、そしてアルブレヒトの二人だった。

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