7
最初は少しぎこちなかったものの、お店に入ってから二人の空気は徐々に戻っていったので、商品を二人で見ていく事に。
点々と置かれた商品を一つ一つ丁寧にロゼッタは見ていく。生まれて初めて見る魔具に興奮を隠せないらしく、気になるものがあると逐一アルブレヒトに聞いていた。
商品説明の紙がないわけではないのだが、ロゼッタには全く読めないのだ。
「この飴みたいな、カラフルな小さい石は何?」
ロゼッタは商品棚にあった、小さな小瓶を指差す。中には小石の様な物が何個か詰められている。赤や青、緑など色は豊富だ。
「それは薬草を調合する時に使う。混ぜると魔術で効力が倍増」
「じゃあ、この鈴は?」
次に指差したのは銀色の鈴。直径五センチ位の大きさで、青いリボンが結ばれている。ロゼッタが試しに振ってみても、鈴のリンとした音は鳴らない。
「ティーレの鈴。リボンに宛名を書いて、魔術で鈴に声を託す。そうすると貰った人は、声でメッセージが貰える。一回使い切り」
「すごい!こんなのあるんだ!」
ロゼッタは感嘆の声を上げて手の平の上の小さな鈴を見る。見た目は普通の鈴なのに、そんな事が出来るなんて意外すぎる。しかも人間の国にはこんな物なかった。これが魔術の力なのか、と改めてその凄さを実感したのだ。
次にロゼッタの目に入ったのはピンクのふわふわしたドレスを着た金髪の人形。まるでお姫様だ。あまりの可愛らしさに、ロゼッタは持ち上げる。
「これはただの人形?」
「それは夜中に、歌って踊る」
「え?」
それを想像してみるが、少し不気味かもしれない。いくら可愛らしい人形でも、夜中に歌って踊れば恐ろしいだろう。呪いの人形の一種だろうか、とロゼッタは訝しげに人形を見つめた。
「本来、夜ちゃんと眠らない子供の為に作った。子守唄を歌わせる為。が、何故か不評」
「でしょうね……」
それを見た子供は逆に恐怖で眠れなくなりそうな気がした。ロゼッタも夜中に人形に歌って踊られたら怖すぎる。多分、そんな理由で売れないのだろう。
しかし、アルブレヒトは売れない理由が分からないらしい。人形を見つめながら、何故売れていないのか考えていた。
「この鏡は?」
人形の横に鏡が一つだけ置かれていた。縁には細かい模様が彫られているが、持った感じは普通だ。鏡を覗いてみても、ロゼッタの顔が映るだけ。
「ウェスティアの水鏡」
「水鏡?水なんてないじゃない」
ロゼッタにはこの鏡は普通の鏡に見える。角度を変えて見てみても、至って普通だった。
「違う。水の精霊の加護を貰えるから、水鏡。見たいものが見れる」
「見たいもの……?」
見たいもの、では表現が漠然としていてよく分からない。ロゼッタは顎に手をあて、見たいものについて考えた。
「未来とか見れるの……?」
「未来は不可。過去も不可。例えば、ロゼッタ様が暮らしていた村。今の村の様子が分かる」
「本当に?!」
ロゼッタは目を大きく見開いた。あれから村がどうなったのか、気にならなかったわけではない。シスターや弟達、妹達は大丈夫なのか、様子を知りたかった。
だが、買わないと映るはずがない。今まで面白い品々はあったが、これ程欲しい品はなかった。
「ちなみに、いくら位するの……?」
「自分の給料二年分」
「……」
アルブレヒトの給料がいくらなのかは分からない。だが、一応彼は魔王陛下に仕えている。つまりは城仕え。その辺りは人間の国と大して変わらないだろうから、結構な給料を貰えるはず。その二年分ならば、かなりの額だ。
「つまり、かなり高いのね?」
「うむ。魔具の中でも上級品」
欲しかったが、まずロゼッタには買えないだろう。そもそも、アルセル公国の通貨は少し持っているのだが、アスペラルの通貨は持っていないのだ。買えるはずがない。
「多分、陛下が持ってる」
「お父さんが?」
彼の言う陛下はロゼッタの父親を指す筈。アルブレヒトはこくりと頷いた。
「城に行けばある。陛下に頼めば貸してくれる」
「そう、なの?」
彼女にはイマイチ自分の父親がどんな人物なのか分からない。性格もどんなのかは聞いていないので、本当に貸して貰えるのだろうかと不安になった。
そんな彼女の不安を感じ取ったのか、彼は大丈夫と言う。
「陛下は優しい。ロゼッタ様になら貸してくれる」
「……そうね、そうだと良いけど」
それでも不安は消えなかった。やはり、自分の目でちゃんと父親を見てみないと分からないだろう。
ロゼッタは窓から外を見た。大分薄暗くなっており、夕焼けが見える。きっと既に夕方だ。もう少しで夜が来るに違いない。
「アル、そろそろ暗くなってきたわね」
「シリルもそろそろ来る。とりあえず、宿屋へ戻ろう」
とりあえず、一通り魔具を見たロゼッタとアルブレヒトは店を出た。向かうのはこの町に唯一ある大きい宿屋。そこでシリルと落ち合う事にしていた。
(7/14)
prev | next
しおりを挟む
[
戻る]