アスペラル | ナノ
6


 正直、ロゼッタは魔族が魔術を上手く使える、使えないという事は、あまり大差ないように思える。まだまだ魔術について詳しくないからかもしれない。
 しかし、魔術が上手く使えるからと言って何になるのだろう、とロゼッタは首を傾げた。

 ただ、少し他の人より「便利」としか思えない。

 それに今更アルブレヒトが魔術を使えないと知った所で、ロゼッタの中で彼の価値が下がるわけでもなかった。魔術が使えなくとも、彼の良い所、凄い所は他にもあるのだから。

「……魔術が使えないからといって、それでアルの価値が決まるわけでもないでしょ。その分アルは凄いわ。とても強いじゃない」

「……」

「この前だって、私を騎士から助けてくれたでしょ?それに、私が殺さないでって言ったから殺さなかった。充分、アルは優しいし強いの。だから魔術が使えないからって、そんなに落ち込む必要はないんじゃない?人は人、アルはアル。他人にあって、自分に無い物があるのは当たり前。一々羨んでいたら、キリがないでしょ?」

 うむ、とアルブレヒトは首を縦に何度も振った。
 喋りながらロゼッタが歩き出した為、彼は追い掛けて静かに彼女の話に耳を傾けていた。自然と足は赤い屋根の魔具屋に向いていた。

「私は魔術についてよく知らないから、こんな事言えるのかもしれないけど……魔術が使えるなんて、人よりちょっと便利ってだけじゃない?」

 お店のショーウィンドウの硝子に振れ、中を覗きこむ。先程魔石の武器や術具などがあると言っていたが、案外普通の物もある。
 ショーウィンドウの中では可愛らしいオルゴールの上を、音楽に合わせて小さな陶器の人形が幻想的舞っていた。多分、これも魔石を使った品なのだろう。これは純粋に綺麗だとロゼッタは思う。

「ロゼッタ様は……面白い」

「面白い?」

 するとアルブレヒトから返ってきたのは、予想外な言葉。まさか、ここで面白いと言われるとは予想していなかった彼女は目を丸くした。

「……魔族にとって、魔術は一種のプライド」

「プライド?」

「人間とは違った点、そして優れた点だから」

 確かに人間と魔族は見た目こそ大して変わらないが、魔術が使える使えないという点ではかなり大きな違いがあるのだろう。そして、今は風潮的に人間と魔族はいがみ合っている。
 魔族は魔族で自分達の優れた点は魔術を使える所として、それをプライドにしているのだろう。

「だから、魔術が使えるか使えないかは大きな違い。大問題」

 彼の話から、何となく分かってきた気がする。ロゼッタが思っていたよりも、魔族は魔術を重要視しているのだ。故に、差別や嘲笑の対象にもなる。

 人間の国であるアルセル公国の村にいた時、大人から聞いた事がある。
 人間の国はとても格差が大きいと。ロゼッタの様に字の読み書きが出来ない子は多くいる。しかし、読み書きも出来て良い教育を受けている子もいる。それが様々な差を引き起こし、嘲笑の対象ともなる事があった。
 非常に近いものがある、とロゼッタは思った。国が違ってもとても近いのだ。

「……でも、魔術が使えなくても私はアルを笑ったりしないから。うん、大丈夫よ」

 そう言ってロゼッタの右手は伸び、自然とアルブレヒトの頭を撫でていた。案外、髪の毛がサラサラしていて手触りが良い。
 ロゼッタは孤児院にいた頃、自分より年下の子供達に囲まれていた。妹や弟が沢山いて、褒めたり慰めたりする時は決まってこうして頭を撫でていた。

(あ……年下って言ってもアルは十五歳なんだよね……つい、アンセルやリーノを褒める時みたいに撫でちゃったけど、これってすっごく失礼……?)

 無意識にしてしまったとはいえ、よく考えてみれば少し子供扱いをしている様な態度かもしれない。だが、すぐに手を引いては逆におかしい。
 ロゼッタは彼をそっと見上げた。怒ってたら、それなりの表情を浮かべている筈。

 だが、浮かべているのは怒りの表情ではなかった。
 気恥ずかしさと緊張と嬉しさ、それらが入り混じった様な複雑そうな表情だった。だが、少しだけ顔が赤いのが分かる。

(……照れてる?)

 これで結構子供っぽい所がある様だ。こうして見ると、彼も普通の少年と変わらない。
 ロゼッタは手をゆっくり下ろした。そして柔らかく笑う。

「ごめんね、孤児院に弟が一杯いたから。つい、癖で。あ……お店見に行こうか!」

 何だかアルブレヒトの初々しい表情を見ていたら、ロゼッタまで照れてきた。空気を変える為、わざと元気に声を上げて魔具屋を指差す。
 何も言えないのか、彼は無言で頷くだけだった。

(頭、撫でられるの……二回目)

 お店に駆けていくロゼッタをぼんやりと眺めながら、アルブレヒトは自分の頭に手を置く。生まれてから頭を撫でられた回数は二回。その二回目がロゼッタであり、とても柔らかく温かい手だった、と彼は思った。
 そして、一回目の頭を撫でてくれた主をふと思い出し、アルブレヒトは懐かしく目を細めるのだった。


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