アスペラル | ナノ
5


「さて、まだ時間もあるし引き続き町を見てみましょ」

「うむ」

 自然と空気は確実に柔らかいものへと変わっていた。とりあえず満足したロゼッタは歩き出した。それをアルブレヒトは追い掛け、まだ隣とは言い難いが斜め後ろを歩き始めた。
 だが、それでも意識の変化は大きい。それがロゼッタは嬉しかった。

「……アルは町とかに行くと、どんな所を見るの?」

「?」

「私は村からほとんど出た事がないの。だから、何をしたら良いのかあまり分からなくて」

 小さい村だったが、お店は三軒程あった。必要な生活用品は大体そこで手に入るので、ロゼッタや村の人には町に行くという習慣はあまりない。たまに行商人が来るので、珍しい調味料や品もその時手に入れられる。
 だから殆ど町に行く必要がなかった。ロゼッタ自身買い物に興味ないのもあったが。

「ロゼッタ様は、買い物とか嫌いですか?」

「ううん、そうじゃないわ。こうやって人で賑やかな所を見るのは好きだし」

 こうやって歩く事で発見もある。ロゼッタはそれが好きだった。正直、買い物や服やアクセサリー類には興味がない。あまりお小遣いがなかったせいもあるが、村に住んでいるとオシャレなどどうでもよかった。

 だが、ロゼッタは今も町を見て楽しんでいる。人間の町とは違い、魔族の町で売っている物が結構違っていて楽しいのだ。

「これは、ランプ……?」

 ふと、店の軒先に吊してあったランプの様な物体に目を引かれた。形はアルセル公国にあった物と大差ない。しかし、中に火を灯せる様な物が無かった。
 代わりに中には、小指の爪程度の大きさしかない赤い石が入っていた。だがこれではランプの役割を果たす事が出来ないだろう。

「うむ。ランプ。魔石を媒介にして、火の精霊の加護を貰う。契約不要で、便利」

「せい、れい……?」

 聴き慣れない単語にロゼッタは首を傾げた。しかし、少し彼女は考えている。アルブレヒトもすぐに答えを言わず、しばらく彼女の好きなだけ考えさせる事に。

「……あ、昔シスターに読んで貰った絵本にあったわ。擦ると願いを叶えてくれるのよね?」

「それ、違う」

 真顔で首を横に振り、アルブレヒトは彼女の間違いを指摘した。それはあくまで人間が作ったお伽話だと、彼は言う。
 すると、僅かにむっとしたロゼッタは「なら、何なの?」と強めの口調で聞いてきた。臆する事なくアルブレヒトはランプを手に取る。

「精霊は魔術を使う時、とても必要な存在。彼らがいるから魔術は成り立つ。魔族は精霊の力を借りて魔術を使う」

「へー。で、その精霊ってどこにいるの?」

「精霊は身の回りにいます。ただ、普段自分達には見えない存在。目で見れるのはとても貴重」

 彼は手に持っていたランプを戻した。
 魔術について、ロゼッタは初めて聴く事ばかりだった。自然と興味はそちらに移っていく。アルブレヒトも淡々とながらも、彼女の疑問に応えられる様に一つ一つ丁寧に答えていった。

「どうやって、その精霊さんに力を借りるの?姿は見えないんでしょ?」

「だから契約する。力を貸して下さい、と。だから玲命の誓詞が必要。あと、基本は色々と道具が必要になる」

 精霊との契約には、玲命の誓詞以外にも供物や魔術知識、それから契約媒体とする方陣が必要となってくる。だが、契約をしてしまえば精霊は半永久的に力を貸してくれるという。
 その精霊の力は、術者の精神や方陣などが大きく関わってくる。玲命の誓詞は長ければ長いほど、力が大きいため、強い精霊と契約しやすいらしい。

 そして、王族は玲命の誓詞が人一倍長い。
 故に王者たる所以でもある、とアルブレヒトは言った。

「そして、さっきの話。魔石は魔力が込められた石。あれは契約なしに精霊が力を貸してくれる」

「便利ね!」

「でも消耗品。魔石も使い過ぎるとなくなる。だけど……民の生活には必要不可欠な品。他にも魔石使った品はある」

「例えば?」

 ロゼッタの言葉に、アルブレヒトはきょろきょろと辺りを見渡した。そして一軒のお店を指差す。
 赤い屋根の小さなお店だった。窓辺には先程の様な不思議な品々が並べられている。

「そこが魔具屋。そこで魔石を加工した武器や杖、装飾品も売ってる」

「魔石って武器にも使うの?」

 うむ、と頷いてアルブレヒトは腰元の双剣を抜いた。よく見れば、柄の部分に小粒程度の青い石が嵌め込まれていた。
 その青い石をアルブレヒトは指差した。つまり、この石が魔石らしい。

「これ、魔石。自分は魔術使えない。だからこれで補う」

「……魔術、使えないの……?」

 ロゼッタは目を見開いた。魔族は皆、魔術が使えるものだと思っていたからだ。しかし、同意する様にアルブレヒトは頷いた。

「魔族皆が魔術使えるわけじゃない。魔術が上手、下手は個人差。自分は……下手」

 少しだけ彼の言葉に元気がなくなった。
 しまった、と一瞬ロゼッタは顔を歪ませる。きっと彼も魔族なのに魔術が上手く扱えない事を気にしているに違いない。その点で言えば、これは地雷だっただろう。



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