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「何って……私も戦うつもりだけど」
ローラントの問いに対し、さも当たり前かの様にロゼッタは答えた。黒いワンピースに剣、何とも不釣り合いな光景である。
表情は微動だにしないローラントだが、雰囲気から何か言いたげなのは分かった。
「さっき約束したでしょう。命は賭けないって。きっと二人で協力した方が良いわ」
「だが、ロゼ……」
「無理はしないし、ローラントの邪魔もしない。それに他人に戦わせて何もしない主なんかになりたくないの。足でまといでいたくないから戦わせて……せめて、自分の身は自分で守らせて」
背中を預けろなんて偉そうな事は言えない。
だが、何もせずただじっと人形の様に待っているのは我慢出来なかった。せめてローラントの足枷になりたくない、というのが彼女の本心である。
主なのに頼りにならない自分がロゼッタはひどく申し訳なかった。
「……ロゼから突っ込むことは無いように頼む。あくまで、身を守る為だけに剣を振るってくれ」
彼の表情から彼が乗り気ではないことは明白。それでも彼女の気持ちを尊重してくれたのだろう。
「分かったわ! 二人で早く城から出ましょう……!」
ぱっと表情を明るくしたロゼッタは周りの兵士を一瞥した。一定の距離を保って彼らは近付こうとしてない。もしかしたらローラントが怖いのもあるが、魔族であるロゼッタにも恐れがあるのかもしれない。
横に居たローラントは既に一番近くにいた兵士と剣戟を開始していた。やはり彼は強いと思わざるをえない。迷いの無い剣筋は一瞬で敵を捉えるのだから。
さて、とロゼッタも剣を握り締める。
真っ直ぐ兵士達に向かって行っても勝ち目が無いのは当然分かっている。
(ローラントには突っ込んじゃいけないって言われてるし、そもそも普通に力比べしたら負けちゃうわよね)
ふと視線を上げると、先程よりじりじりと兵士達が近付いてきている。ローラントを見ると、彼は違う兵を相手にしており、ロゼッタ達には背を向けていた。
ロゼッタは剣を一振りした。
(でも、私はローラントの背後を守らなきゃ……)
今は守られているだけだが、それでも彼がロゼッタを主人としている限りはそれの気持ちに応えたいと思えるのだ。寄り掛かっているだけの今でも、背を見せているということは少なくともロゼッタに信頼を寄せているということなのだから。
「おりゃっ!」
「!」
兵士の一人がロゼッタに向かって剣を振り下ろした。
何とか振り下ろされる瞬間目で捉えられた為、咄嗟にロゼッタは持っていた剣で防いだ。
剣を振り回すのがやっとだというのに、そこに更に相手の剣と力が圧し掛かる。後ろに倒れそうになったものの、片足を一歩引いて何とか持ち堪えた。
(重っ……!)
相手の剣は離れたものの、彼女の手は衝撃で痺れていた。
アルブレヒトやリカードはあんなに軽々と戦っているのに、とロゼッタは改めて力の差を思い知った。経験もそうだが、性別と言う根本的な部分から筋肉の出来方が違う。
鍛えればマシになるだろうが、剣なんてろくに握ったことないロゼッタがすぐに扱える様になるわけではない。
しかし、相手は待ってくれない。ここでロゼッタの首を打ち取れば、国を脅威から救った英雄となれるだろう。再び兵士はロゼッタに向かって剣を振り下ろす。
「わっ!」
今度は細かい攻撃だった。右、左、右、と兵士は剣を打ち込んでくるのだ。
慌てて剣で防ぐが、相手の動きについて行くのが精一杯。押し返すことも出来ず、一歩、また一歩と後ろに押されていた。次第に剣を持っていることさえ辛くなってきた。
すると、一瞬、視界の隅で影を捉えた。
兵士の数は一人ではない。そして、これは剣の稽古でもないのだ。文字通り命懸けの戦いなのだから、兵士が必ずしも一対一というわけではない。
もう一人の兵士が、ロゼッタの右側から剣で彼女を狙っていた。
(やばいっ!)
この状況で冷静な判断を下せたとしても、正解がどれかは分からない。ロゼッタは本能的に左側へ避けようとしたが、足がもつれて左側へ倒れ転ぶ様な形で何とか二撃を躱した。
しかし、目前の攻撃を何とか回避させても次だ。剣は転んだ瞬間に手から離れ、兵士達の足元に。
半身を起こすが兵士は目前。今すぐに立ち上がって剣を拾っても間に合わない。
立ち上がった瞬間に切られるのが目に見えていた。
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