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「ただし、三つ条件があるわ」
ローラントの追従には同意したものの、渋った表情で彼女は指を三本立てた。
「我が君の御命令であれば何なりと。それで御命令とは?」
だがローラントは嫌な顔一つしない。忠犬……いや、従者のアルブレヒトを少しだけ彷彿とさせた。
「私は王になる気は無いから、ローラントに安定した生活を保障出来ない。せいぜい姫君止まりよ。だからそこはちゃんと考慮して欲しい、これが一つ目」
まだ王族の内情に詳しいわけでは無いので、付き従うローラントに対してちゃんと給金が払えるかも判らない。彼女に領地がないのも一つの理由だ。
それに王位継承権は持っているものの、王へ出世出来るかは未定。彼女自身そのつもりもなく、今はこっそり離宮に隠れ住んでいる身だ。
もし「王」に仕えたいという気持ちがあるなら、ロゼッタでは叶えられない、そう彼女は思ったのだ。
「私は我が君に忠誠は誓ったが、アスペラルそのものに忠誠を誓ったわけではない。それに我が君だからこそ誓った。姫だろうと王だろうと関係は無い」
「そ、そう……」
忠誠心全開のローラントにロゼッタは少し圧倒された。今なら靴を投げても喜んで犬の様に拾ってくる、そんな気がしたからだ。
「それから、二つ目は我が君っていう呼び方は止めて。流石に恥ずかしいわ……」
ロゼッタは前々からロゼッタ様や姫様と呼ばれること自体に抵抗がある。我が君となれば尚更。そんな呼び方をされるのであれば、まだ名前を呼び捨てにされる方がずっと良いとロゼッタは思う。
ローラントの勢いならば、これからずっと彼女を「我が君」と呼びそうなのであえて釘を刺しておいたのだ。姫様よりもずっと恥ずかしい呼び名である。
僅かに不服そうではあったがローラントは承諾した。
「では、何と御呼びすれば?」
「別に私は姫様とかロゼッタ様って呼ばれるのは好きじゃないし……普通にロゼッタって呼ばれる方が良いわ。他の呼び方でも良いんだけど」
少しだけローラントは考えた。主君の名前を呼び捨てすることに、少し抵抗があるのかもしれない。が、主君の命令は絶対。
では、とローラントは数秒の後目線を上げた。
「……ロゼ、とこれから御呼びしても良いだろうか?」
ロゼッタは二つ返事で頷いた。愛称を付けられるということは今まであまり無かったが、これはこれで良いと彼女は思う。少しくすぐったい感じもしたが、我が君よりはマシだろう。
「それで、三つ目の御命令とは?」
「三つ目は命を賭けないで。さっき私の為に命も捨てられるって言っていたけど、それは駄目。私はそんな事されても嬉しくない」
これだけはきっぱりと厳しい表情でロゼッタは告げた。
はっきり言って馬鹿らしい、とロゼッタは思う。それだけ大切に想われているのは分かる、それは嬉しいのだ。だがそれでもロゼッタの為に命を捨てる様な行為までは認めたくなかった。
ここまで真っ直ぐなローラントには少し苦笑するしかない。
「分かった、出来るだけ善処はしよう……さて」
これも不服そうであったがローラントは了承し、剣の柄を掴み剣を構え直した。
ずっと悠長に喋っていたものの、城内の兵士達に囲まれているという状況から未だ脱してはいない。ローラントの実力が怖く兵士達は遠巻きに見ているものの、いつ襲いかかってくるかは分からなかった。
状況は常に悪化し続けている。ローラントが突っ込んで逃げ道を作ろうにも、前にも後ろにも敵がいる状況では意味が無い。
「ロゼ、君は下がって……何をしているんだ」
言い掛けたローラントがロゼッタを見ると、彼女は宝飾の剣を構えようとしていた。
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