12
下がっていてくれ、とローラントはロゼッタを背で庇う様に一歩前に踏み出た。流石は騎士団長の一人と言うべきか。剣を構え直した瞬間、彼の纏う雰囲気がガラリと変わった。
すると、気を急いた一人の兵士が仲間の制止も聞かずにローラントに向かって飛び出す。
たった一閃だった。経験も技術も上であるローラントは、一振りで向かってきた兵士を薙ぎ倒したのだ。
彼の太刀筋は理知的だとロゼッタは思う。所作は少ないが冷静に相手を見ている為、的確に最小限の動きで相手の急所を突くのだ。同じく騎士団長を務めるリカードとはまた違った剣である。静か、そんな単語が彼の剣には似合う。
技量の差に他の兵士達は怯んで一歩下がった。
「ローラント様……何故魔族の肩入れなどするのですか?!」
元は部下だったのだろう、兵士の一人が叫んだ。仲間であった筈の信頼が裏切られ、まだ現状を信じられない様であった。
しかし、ローラントは彼に対して何も答えなかった。無言で剣を構え前を見据えている。
だが、その無言こそが決定的に離反を示していた。
「相手はたかが二人だ……かかれっ!」
一人の合図に複数の兵達が切りかかって来た。
「ローラント……! 私も手伝うわ!」
「手を出される方が足手まといだ。下がっていてくれ」
君まで戦っていては誤って斬りかねない、とローラントは呟いた。
足手まといであることは自覚している。しかし、こうもはっきり邪魔と言われては手を出すわけにはいかなかった。ロゼッタは渋々上げていた切っ先を下げた。
その後のローラントはまさに鬼気迫るものがあった。一人斬ったと思ったら、更に一人の剣を弾き返し、その反動を利用してもう片方の兵を斬る。振り下ろされる剣に躊躇いは無く、的確に相手を斬り倒していた。
囲んでいた兵士達を物凄いスピードで倒していくローラント。鬼と形容するのに相応しい姿であった。
だが、ローラント一人に対して数が多い。徐々に増援しているのも一因だろう。疲労の色は増していくのに数が一向に減らず、傍観していたロゼッタにも押されているという雰囲気は感じられた。
「ローラント……!」
心配のあまりロゼッタは声を上げるが、彼は下がっていろの一点張り。ただ彼が防いでくれているお陰でロゼッタは未だ無事であった。
金属音が廊下に響き、ローラントの兵士の一人が鍔迫り合いになっていた。剣術は上でも力では平均的なのだろう。押したり引いたりと、一歩も譲らない。
「君を助けに来たのだと、言った……これだけは自分で決めたこと……!」
語調を荒げた瞬間ローラントは相手の剣を押し返し、すかさずその腹部に剣を叩き込んだ。相手は後ろに倒れた。
「……だから、君だけは守らせてくれ」
「どうして……?」
ロゼッタは悲痛そうな表情を浮かべ、ローラントを見上げる。
彼はロゼッタに視線を向けることはない。前を見据え、次々と来る衛兵を薙ぎ倒していく。
「自分は、したい事もすべき事も何も無かった。見付けたことも無い」
「え?」
彼の真意も分からず、動揺を隠せないロゼッタ。そんな彼女に、ただ聴いてくれ、と静かにローラントは呟いて剣を振るうのだった。
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