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ロゼッタはローラントと城内の移動を始めた。
どうやら彼の方は隠れる気が無いらしい。隠れもせず、城の裏口方向へと真っ直ぐに向かっていた。実際のところは既にロゼッタの脱走が衛兵に気付かれている為、隠れていても仕方が無いのだ。迅速に外へ出ることになった。
廊下の途中衛兵と出くわすと躊躇いなく彼は斬り捨てていた。
目の前で淡々と剣を振るうローラントを目の当たりにして、ロゼッタは胸が締め付けられる思いだった。ロゼッタが強要したわけではないが、それでも彼が部下達を斬っているのはロゼッタのせいなのだから。
だが彼に対して掛ける言葉が見付からなかった。本当は人を殺す行為を認めたくなかったが。
「ああそうだ、今のうちにこれを渡しておく」
そう言ってローラントが渡したのは銀色の鍵。鍵で思い付くのは一つしかない。
「これ、手錠の? ローラントが持ってたの?」
「いや、本来なら違う場所で保管されている物だ。理由を付けて預かってきた」
実直そうな彼でも嘘を吐くんだ、とロゼッタは妙に安心してしまった。
だが彼のお陰でずっと邪魔だった手錠が取れる。彼から鍵を受け取ると鍵穴に差し込む。すんなりと鍵穴に入ったから本物だ。鍵を回すとガチャと音を立ててロゼッタの手首から手錠が外れた。
手錠を床に放り、ロゼッタは手を握ったり開いたりして動かしてみた。もう手錠の圧迫感も重量感も無い。手首の周りは赤くなっているが軽かった。
手錠が外れただけで随分違う。気分も軽くなった様で、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「ありがとうローラント……これで魔術も使えるわ」
魔術が使えれば大きく話は違ってくる。剣を振り回す必要はなく、魔術の方が威力が大きい。
しかし、ローラントは眉を寄せた。
「それなんだが、城内で魔術は使えない。聖石の手錠は念の為にしたが、本来ならこの城では使えない仕組みになっている」
「え? どういうこと?」
ローラントの説明によるとこの城は建設当初から聖石を所々に使い、魔族による攻撃を防ぐ為の対策がされているらしい。点々と散りばめられた聖石は結界の様な効力があるとか。しかもその数は多く、柱を何本か壊してもその石の効果を消せる事は出来ない。
つまり、この城内にいるならどの魔族も魔術が使えない状態になるのだ。
何とかならないものかと尋ねてみたが、ローラントは無理だと首を横に振った。
「城の敷地内から出ないと無理だな」
やはり城から出るまで頼るべきは自分の剣とローラント。ひたすら城外へ進む他ない。
ロゼッタとローラントは先を急いだ。
ようやく階段に辿り着き、それを転げ落ちそうになりながらも駆け降りた。ようやく二階。だがまだ先は長く、廊下を進むと更に騒ぎを聞き付けた衛兵がこちらに向かっていた。
振り返れば、後ろからも騒がしい声が聞こえてくる。ロゼッタとローラントの二人に対して、敵の数は増えつつあった。衛兵だけじゃない、城に居た騎士までもが向かってきた。
「ちょっとローラント、数が増えてきたわ!」
まるで叫ぶ様に前方のローラントへこの状況を訴えた。
今まで廊下で遭遇した衛兵は全て斬ってきたが、彼女達に向かってくる兵の数は二人や三人ではない。ざっと数えて十人以上はいるだろう。ロゼッタは戦力外と思って良い。それを考えるとこれだけの兵をローラント一人で斬らねばならない。
ロゼッタは息を呑んだ。次第に顔色は状況と比例して悪くなっていった。
「魔術が使えれば……」
ノアやリカードには鼻で笑われる程度の魔術だが、ローラントの援護位なら出来た筈だった。
ローラントをちらりと盗み見ると、彼の表情にもまた焦りの色が浮かび始めていた。
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