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出来るだけ足音は出さない。けれど早歩きで、周りの気配を伺うのも怠らない。細心の注意を払ってロゼッタは廊下を進んでいた。
晩餐の夜一度歩いたせいか、所々見覚えはある。しかし出口までは手探りという状況であった。
ロゼッタの手には一本の装飾過多な剣が握られていた。
これは部屋を出てすぐに、廊下で見付けたものだ。廊下に落ちていたというわけではなく、廊下に飾られていた鎧が腰に携えていたもの。それを勝手ながら護身に、ロゼッタは拝借した。
ここまで装飾が多いと無駄に重いし、多分飾りとしての意味が強い為切れ味は良くないだろう。それでも無いよりはマシだと思えた。
(やばい、誰か来る……!)
感覚を研ぎ澄ませていると、前方から足音と話声が聞こえてきた。咄嗟にロゼッタはすぐ真横にあった部屋に滑り込む様に入って身を隠した。
幸い室内には人がいない。扉にもたれかかりながら、廊下の足音に耳を澄ませた。
段々と近付いてきて、そして遠ざかって行く。扉の前で立ちどまる事も無かった。もしロゼッタの気配に気づいてこの部屋に入ってきたらどうしようかと思ったが、杞憂に終わったようだ。
恐怖は過ぎ去ったが、心臓は未だにバクバクと煩く跳ねていた。
(見付かるかと思った……)
閉じ込められていた部屋を出てまだ遠くにもきていない。地上からはまだ何階ものの高さがある。
きっと外に出るまでこんな状況に何度も陥るのだろう。
(行かなきゃ。少しでも下の階に行って、外に出なきゃ)
最悪、二階の窓から飛び降りる事も覚悟しなくちゃいけないとロゼッタは思った。万が一見付かったら、逃げ切れる自信は彼女に無い。
(そういえば、これはどうしよう……鍵探してる時間なんて無いし)
一つ彼女に気掛かりなのは手錠の事だ。鍵が何個あるかは知らないが、この城のどこかで厳重に保管されているのは明白。しかし、脱出も困難なこの場所で鍵を探しに行くまでの労力は無い。それに城内を無闇に歩くのは捕まえて下さいと言っているようなものだ。
だからこそ、手錠はこのままでロゼッタは部屋を出たのだ。
外に出て皆と合流出来れば、壊すなりこの手錠を外す方法はある筈である。
扉をそっと開け、廊下に誰もいない事を確認すると、ロゼッタは再び廊下に出た。
それから物音には気を付けつつ廊下を進み、誰かが来そうになったら部屋や物陰に隠れる。そんな事を何度もロゼッタは続けた。
何度も見付かりそうになったが、どうにか階段を見付けるに至ったのだ。
だが階段を見付けたからといって油断はしてはいけない。むしろ階段が一番難所と言っていい程である。
何故なら階段はある意味一本道で、隠れられる部屋も無ければ物影も無い。誰かが上って来たり下りて来たりすれば、来た道を引き返すしかないのだから。
ロゼッタは手摺同士の隙間から階下を覗いた。下に行けば行くほど暗くて見えない。
(人は今のところいないみたいだけど……)
しかし、怖いのは巡回中の衛兵だ。いつ階段に来るか分からない。
ここへ来るまで何度も巡回中の衛兵に出会いそうになった。寸前のところで隠れることで難は逃れているが、見付かればそこで終わりだろう。
一度使用人の服を着て使用人に装う事も考えたが、彼女には無理があったのだ。彼女を見た使用人は少なくない。それに銀の髪はアルセル公国でも珍しい方なのだ。
(でも、これ下りないといつまで経っても外には出れないし)
ごくりとロゼッタは息を呑んで、一層緊張感が高まりつつある中、階段をゆっくり下り始めた。
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