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「ああ、そういえば……」
すると雑貨屋の店主は何かを思い出したようで、癖の様に髭を撫でた。
「近々処刑が行われるんじゃないかって、街の連中が話してたなぁ」
店主の言葉にアルブレヒトとノアの二人は眉を寄せた。ロゼッタが捕まったばかりのこの時期に処刑、嫌な予感がした。
詳しく教えて、とアルブレヒトは店主に詰め寄った。
「坊主達、城の敷地内に柱が立っていたのは見たか?」
見た、とアルブレヒトは頷いた。
ノア自身もあの柱の正体は気になっており、店主の言葉を待っていた。
「ありゃ断頭台の柱だよ。今日から組み立て準備してるらしい」
「断頭台……って、あの首を刎ねるあれ?」
それ以外に無いと知りつつ、ノアが聞き返していた。
当たり前だろうと店主は笑っていたが、二人には笑い話じゃない。特にアルブレヒトの顔からは血の気が引いていた。
ただただ、アルブレヒトの中では嫌な予感が駆け巡っていた。
親切心からか、店主は教えてくれた。柱を二本立てて、その間に掛けた刃を落とす装置を作っているのだと。
そして、このペースならば数日中には執り行われるという。
「……ちなみにそれって公開するの?」
ノアが神妙な顔で問いた。
「まちまちだなぁ。する時もあるし、しない時もあるさ」
公開するならばその日に、未公開の処刑ならば後日に一般人に通達されるらしい。
しかし、通達後に行動を開始しても遅いだろう。公開処刑だったとしてもすぐに行動に移すのは難しく、未公開だったならば通達後は全てが終わった後だ。
どうする、とノアはアルブレヒトに目配せをした。
「うむ、ありがとう」
そしてアルブレヒトは店主に短く礼を言うと、すぐさま店の外へと歩いて行った。ノアもその後ろを急いで追い掛けた。
二人の後ろからは店主の毎度、の一言だけが掛けられたのだった。
*** 王の執務室から退室したローラントは、そのままロゼッタが監禁されている部屋へと直行した。
「失礼する」
ノックもそこそこに、ローラントはロゼッタの部屋の扉を開け放った。
いつもなら驚いた瞳で彼を見るのだが、今日のロゼッタは違っていた。ベッドにもたれ掛かりながら床に座り、宙を見ていた。
ぼんやりしているのか、と思ったがどうやら違うようだ。はっきりとした水色の瞳は、何も見てないようだが力強い印象を受ける。何かを思案している様にもとれた。
もしかしたら泣いたり取り乱したりしているかもしれないとローラントは思っていたが、それは杞憂だったようだ。
静かにローラントは彼女に歩み寄った。
「……朝食は食べたようだな」
テーブルの上に置かれた空いたスープ皿を見て、そう声を掛けた。
彼が来たことに今気付いたのか先程から気付いていたのか知らないが、ロゼッタはちらりと彼を見ると「ええ」と頷いた。
「……」
いざ来てみたものの、ローラントは彼女に何と声を掛けて良いか分からなかった。彼の立場上慰めるわけにもいかず、だからといって死を受け入れろと説得するわけにはいかない。
目の前の少女はただ静かに座っている。悲しみも怒りも無いのだろうか、という疑問だけがただローラントに浮かんだ。
「……話は聞いただろうか?」
「ええ、廊下で大声で話すんだもの」
嫌でも聞こえるわ、とロゼッタは苦笑してみせた。
その苦笑にローラントは罪悪感しか抱けなかった。
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