アスペラル | ナノ
15

 ローラントの後ろをついて行く様にロゼッタは歩いていた。
 初めて歩く離宮以外の城内部。ここもまた迷路の様に入り組んでいる、とロゼッタは思いながら天井を見上げた。きっとここに置いて行かれたら絶対に先程の部屋には戻れないだろう。
 彼女の手首には未だ聖石の手錠が付けられ、ガチャガチャと音を立てていた。まるで罪人が処刑場に連れられて行くような重々しい雰囲気に、この華やかな城内では異様にも見える。

 すれ違うこの城の使用人達はロゼッタと目を合わせなかった。だが、確実に彼女を悍(おぞ)ましげに見ているのだろう。そこらかしこから、彼女は全身に突き刺さる様な居辛い視線を感じていた。

「ここだ」

 ローラントが視線で指した先、そこには仰々しい扉があった。王の威厳はたっぷりである。
 固唾を呑んでロゼッタは扉を見上げた。この先にアルセルの王がいる。

「私は扉の前にいる。ここから先は君一人だ」

 手錠までして厳重に監禁したと思ったら、今度は王と一対一である。随分と油断しているようにも見える。

「いいの? 急に私がアルセルの王を襲うかもよ?」

 有りもしないことを口走るロゼッタ。ただロゼッタを甘く見ている彼がどういう反応をするのか気になり、ただ思った事を述べていた。
 じっとローラントはロゼッタを見返した。

「君はそんな事しないだろうな。いや、出来ない」

 だが、ローラントの口からはきっぱりとした断言。しれっと言い放つその姿に少しだけロゼッタはむっとした表情で彼を見上げたが、はっきりとした反論の言葉が出てこなかった。

「陛下はもうお待ちだ。中に入るといい」

 扉の取手を掴むと、ローラントは慣れた手つきで開け放った。
 強張った表情ではっと息を呑み、ロゼッタは扉の先を見つめる。彼女が見つめる先、食事の乗った円卓の向こう側に初老の男性――アルセルの王がいたのだった。

***


 今円卓に着いている者はアルセルの王とロゼッタだけであった。
 最初は何か罠があるかも、と警戒した。立ちながらでは話しにくいだろう、と半ば無理矢理彼女は食事の席に着いたのだった。
 円卓の上には銀の皿に乗った数々の料理。中央には丸焼きにされ、飴色のソースを絡めた大きな肉の塊も鎮座している。それから食欲をそそる様な香ばしい匂いのパンもバスケット一杯に入っている。
 しかし、今の彼女には食事を楽しもうという気分は微塵も無かった。

「遠慮はいらぬ。食うが良い」

 細かい皺の多い顔に更に皺を作り、アルセルの王はロゼッタに食事を勧めた。何か裏がありそうな、その笑顔が逆に気味が悪い。
 ありがとう、とロゼッタは素っ気無く答え、グラスの水に伸ばすのだった。本当ならば水にも手を付けたくないところだが、緊張のせいでやけに喉が渇いていた。殺す目的なら既に殺している、というローラントの言葉でとりあえず水は安全だろうと踏んでいたのだ。

 室内をちらりと見回してみると、円卓に着いているのはアルセルの王とロゼッタだけ。だがロゼッタと王の一対一というわけではなく、給仕の使用人が数名と城の騎士も数名入口や窓に配置されていた。

(……居心地悪い)

 アルセルの王はあくまで持て成しているかの様な態度だが、他の使用人達は無表情。たまに視線を感じるものの、それは歓迎されているものではなかった。

(逃げるのは無理。何かしたら、確実に殺されるわね……)

 窓も入口も塞がれ、彼女に逃げ道など無い。元より敵陣に一人で乗り込んだのははっきりと自覚していたが、再度分の悪い賭けを認識させられるのだった。
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