アスペラル | ナノ
14


***


 ローラントが部屋を出てから、ずっとロゼッタはぼんやりと窓の外を見ていた。
 この部屋には本も何も無い。する事がなく、外を見ているくらいしかする事がなかったのだ。
 しかし一度この城の使用人と思われる女性が一度入ってきた。水差しを取り替えに来てくれたらしいが、ロゼッタと目を合わせることはなく、声を掛けても無視をされた。
 ロゼッタが魔族だと知っているからだろう。当然と言えば当然の反応なのだが、こういった扱いに慣れていないロゼッタはただ悲しかった。

 だからそれ以降はただ外を眺めていた。だが落ち着いて外を見ていると、案外色々なことに気付けるものだ。
 今いる城がアルセルの王の居城なのならば、近く見えるあの大きな町は王都のベルシアということになる。だから大きい町なのね、と彼女は納得がいった。

 アルセル公国に住んでいた時はずっと村の近くから出ることはなかった。ベルシアを見たのも今回が初めてである。
 賑やかで、でもどこか華があって綺麗な町だった。そんな町を遠目で見ながら、今は遠いアスペラルに思いを馳せていた。
 まだアスペラルの王都アーテルレイラは訪れたことが無い。リーンハルトやシリルに聞いた話では、どんな国の王都にも負けない程立派で花が舞う程美しいという話だ。脚色されたかのような話だが、それをロゼッタは楽しげに話を聞いていたのを彼女は思い出す。

 アスペラルの王都もこれほどなのだろうか、と未だ見れぬ王都を想像した。
 もしアスペラルに帰れたら、いやアスペラルに帰って王都に行く時が来たら、その日を楽しみにしようとロゼッタは思った。アルブレヒトやノアはきっと案内役には不向きだし、リカードは案内役を了承してくれないだろう。リーンハルトはきっと無駄にベタベタ触りながら案内をするだろうから、案内を頼むのはシリルが一番ね、とロゼッタは一人笑った。
 こうやって落ち着いていられるのは不思議だが、きっと皆のお陰なのだとロゼッタ思う。

 すると、部屋の扉が二回ノックされる。
 また使用人が水差しを替えに来たのかもしれない。振り向くのも面倒に思ったロゼッタは、そちらを見向きもせず、橙色に染まりつつあった外を見続けていた。

「……失礼する。そろそろ晩餐の時間だ」

 使用人とは思えない低い男性の声に、はっとしてロゼッタは振り向いた。

「ローラント……もう晩餐? 結構早いわね」

「陛下もご高齢ではないが、大分歳を召されてきた。割りと早めだな」

 準備してくれ、とローラントが室内に入ってきた。
 ロゼッタはベッドから立ち上がったが、準備してくれと言われても特に準備するような物はない。元々身一つで連れてこられたのだから。
 しかしふと、服装はこれで良いのだろうかと自分の体を見下ろした。一応晩餐の相手は一国の王。今ロゼッタが着ているのは町で買ってもらった服だ。普通ならばそれ相応の衣装を着るべきなのだろう。

「ローラント、私格好とか整えなくて大丈夫……?」

 ロゼッタの言葉に、ローラントは若干目線を下げて彼女の服装をちらりと見た。今まで意識して見ていなかったのだろう。彼女がどういった意味で言ったのか、すぐに理解したようだった。
 だが、意外にも彼から返ってきた言葉は「それでも大丈夫だろう」の一言だった。

「事情が事情だ、陛下も君が荷物を持っていないことなど知っている。君が気になると言うならば、こちらで何か用意するが」

「ううん、それならいいわ。わざわざ用意して貰うのも嫌だし」

 そして行きましょう、と黒い裾を翻しロゼッタはローラントに連れられるままに部屋を出た。
 向かう先はアルセル王の下。緊張していないと言えば嘘になる。
 しかし、水色の瞳はしっかりと前を見据えていた。
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