アスペラル | ナノ
11

 その後、ロゼッタがスープを食べきった頃だった。
 ローラントは仕事が他にもあるということで、完食した皿を持ってこの檻とも呼べる部屋から出て行った。
 室内には見張りはいないものの、扉も窓も施錠され、何かあればすぐに誰か来れる程兵士は常にいるらしい。自分の為にも大人しくしていろ、とローラントは忠告めいた言葉を吐いて退室したのだった。

 ロゼッタとて今は一人で脱出しようとは考えていなかった。アルセル公国育ちとは言え、王都は地の利に疎い。普通の騎士達に追われれば、すぐに追い付かれる自信もある。
 とりあえずは大人しくして居よう、と部屋のベッドに腰を下ろしていた。

「何だか、可笑しな事になってきたわね……」

 自分の我侭でアルセル公国に来たものの捕まり、今では手錠を繋がれつつも客人としてアルセル王の居城にいる。彼女の行動が軽率だったとはいえ、今は一寸先は闇状態。この先彼女の身がどうなるのか見当もつかなかった。
 しかし、こんな状況下ながら先程までは敵対するアルセル公国の騎士ローラントと、親しげに話すこともあった。ロゼッタ自身でも普通に接する事が出来た自分が不思議であった。

(でも、そう簡単に離してくれるわけないわよね)

 現在の「客人」という名目もどう考えたっておかしいのだ。アルセル王の考えが読み取れない以上、油断していけない。聖石の手錠をされている時点で、彼女の意思は拘束されているのだから。

(こういう時こそ、冷静に考えなきゃ)

 目が覚めたばかりの時は、知らない室内に一人ぼっちという環境だったせいか内心パニックになっていた。
 だが今は冷静に今の状況を受け止め、打破しようと彼女なりに知恵を振り絞っていた。
 ここまでロゼッタが平静を保つ様になったのは、きっと彼女の気持ちの向きが変わったのが大きいのだろう。生きてアスペラルに戻りたい、という意思が。

(ローラントはあれから二日経ったって言ってたわよね……流石にアル達も探してるはず)

 一応ロゼッタにはまだアスペラル国王第一後継者という肩書が残っている。今回それが仇となったのもあるが、その肩書がある限りはアルブレヒト達は必死に探してくれているに違いない。
 だが、問題は彼らが何処を探しているかである。当然ロゼッタが連れ去られた場所を知っているわけがない。
 シリルがいるのだから闇雲に探したりはしてないだろうが、手掛かりが無いのは辛い筈である。

(ここにいるって伝えられたら良いんだけど……)

 味方がいないこの城では、どう考えても伝達手段は何も無い。
 渋い表情でロゼッタはしばらく考えた。皆に連絡を取る方法、ここから無事に脱出出来る方法、それから今国境沿いで起きてる戦争のこと。
 自分の今の状況ばっかり考えているが、戦争が起きていることを忘れてはいない。

「……よし」

 ならば賭けを一つしてみよう、とロゼッタは決心をした。
 ローラントの言葉通り彼女が「客人」ならば、今日の晩餐はまだ危害を加えられたりはしないはずだ。その時に状況を探りつつも、自分が生き残る道も戦争を止める道も見付けようと思ったのだ。
 未だに何を考えているか分からないアルセル公国の王。彼にも良心があることをロゼッタは祈る。
 和解が出来れば良い、とロゼッタは素直に思う。彼女自身、アスペラルもアルセル公国も好きな祖国に違いないのだから。

 スカートをぎゅっと強く握り締めた。
 これが危ない橋渡りだということは十分理解している。失敗すれば殺される可能性が高くなることだって。
 しかし、初めて自分で国の為を考えて動こうとしていること。失敗も成功も関係無い、とにかく動こうという彼女の意思は揺るぎなかった。


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