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油断したのは自分の落ち度だったかもしれない、とはロゼッタも思う。
だが彼は騎士団を束ねる一人。正直言えば、あんな辺境の村にローラントがいるとは思っていなかったのだ。
「それで、君はどうしてあの村に?」
ローラントにあの村にいた理由を聞こうとした矢先、逆に彼に尋ねられる結果となった。
「……教会の皆が、心配だから戻ってきたの。国境沿いで争いになってるって聞いて。ローラントこそ、どうして?」
馴れ合うべき相手ではないことはロゼッタ自身も分かっている。彼はアルセル公国側の人間。ロゼッタに対して、何かを聞きだす魂胆があるかもしれない。
だが、不思議なことに彼はどこか喋り易いのだ。無表情で考えている事が判り辛いというのに、信頼出来そうな気がする。
「戦争に出ているのは……まぁ、他の騎士団だからな、私の師団は前線部隊への物資の救援を行っていた。城から物資を届け、あの村で水の供給を行った後に帰城するつもりだったところで……君を見付けた」
運が悪いとはこの事なのだろう。ロゼッタのタイミングは悪過ぎた。
あの日、あの時間偶然ローラントが居合わせたというだけで今では囚われの身だ。もし時間がずれていたら、会う事はなかったのだろう。
「私もアルセル騎士団の者だ。君を見付けた以上、見逃すわけにもいくまい」
彼の冷たさが残る言葉に、ロゼッタは自分の立場を再度思い出した。
いくら何度か言葉を交わしたことがあっても、ロゼッタはアスペラル王の姫。それに対してローラントはアルセル公国の騎士。敵対関係にあるのは子供でも分かる。
ロゼッタは座っているベッドのシーツをぎゅっと握り締めた。急に心細くなったが、ここでそれを明るみにしてはいけない。
「……あの夜から、どれ位経ってるの?」
「二日だ。少々強く殴り過ぎた」
ロゼッタがいなくなって二日、流石にそれ位経てばアルブレヒト達も彼女を探している頃だろう。
しかし、安堵は出来ない。突然いなくなったロゼッタがアルセルの王都にいるなどと、手掛かりも無しに誰が想像出来るだろう。
「じゃあ、どうして私は生きてるの……?」
アルセル公国で捕まった魔族はどういった処罰をされるのかは分からないが、生きては帰れないことは容易に想像出来る。だが、二日彼女は生かされている。それがどういった意味を持つのか、ロゼッタには分からなかった。
しかし、ローラントは誤解しないで欲しい、と苦々しく呟いた。
「我々は魔族を見付け次第殺しているわけではない。それと、陛下は君を客人として招いている」
「は?」
陛下の客人という部分で思いっきりロゼッタは眉を顰めてしまった。
アルセルは隣の帝国程魔族の迫害が酷いわけではないが、魔族の奴隷も容認しているし、国境を越えた魔族は容赦なく捕らえている。それなのに魔族の姫である彼女を「客人」として招くのはおかしい。
それに彼女の腕には手錠も付けている。名目は客人としてだが、どう考えても何か裏があるとしか考えられない。
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