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「お父さん、が……?」
「はい」
嬉しさを隠せないロゼッタは唇を震わせながら呟く。迎えに来てくれたのは父ではない、だが、自分はいらない子ではなかったのだと安堵した。少なくとも父親も会いたがってるのだと。そんな事を考えていると、自然とロゼッタは涙ぐんでいた。
涙ぐんでいる彼女を見て、シリルは優しげに微笑んでいた。だが、その横でアルブレヒトだけは険しい表情を浮かべている。手は剣の柄に触れ、茂みの遠くをただ凝視していた。
「アルブレヒト……?」
「シリル、足止めちゃんとした?」
「!……したつもりなんですけどね。ははは」
僅かに驚きの表情を浮かべたかと思えば、気弱げにシリルは苦笑した。そして、すみません、とアルブレヒトに短く謝罪した。
「ロゼッタ様を守れ」
「分かりました」
「え、ちょっと、それどういう意味で……」
アルブレヒトの言葉の意味が分からないロゼッタは戸惑うが、ロゼッタの言葉を遮ってシリルは自分の背に彼女を隠した。その間、アルブレヒトは尚も茂みを凝視しながら双剣を抜いていた。
そして、茂みから馬に跨った男が飛び出してきた。長い黒髪に灰色の切れ長の瞳。彼にはロゼッタもよく見覚えがある。
「騎士団長……!!」
アルセル公国騎士団の団長ローラント・ブランデンブルグだ。先程部下の様子を見に行って別れたが、彼は元々ロゼッタを捕らえる為に村に来たのだ。彼女がいなくなったならば追ってくるのは当たり前だろう。
先程から二人が警戒していたのはローラントなのだろう。馬から降り立った彼はまさに騎士団長にふさわしい、厳格な雰囲気を纏っていた。
そんなローラントとアルブレヒトは剣を手に睨み合う。
「……彼女を渡して貰おうか。彼女は今王都へ移送している最中だ」
「無理。ロゼッタ様は自分達が国へ連れて行く」
「……国?」
眉を上げ、ローラントは疑問を呟く。ロゼッタはこの国に住んでいる孤児。だが、ローラントにとっては正体不明のこの二人の男の国はどこか知らない。それはロゼッタも同じで、アルブレヒトの言葉には彼女自身も「どこの国?」と首を傾げていた。
「ロゼッタ様はアスペラル国王の大切な世継ぎ。人間には渡せない」
「!」
驚愕でローラントの瞳が大きく開かれる。それを初めて聴いたロゼッタも驚きを隠せなかった。
アスペラル国王というのは、つまり魔族を統べる魔王という事になる。その世継ぎと呼ばれるロゼッタは、必然的に魔王の娘という事だ。そんな事、今の今までロゼッタ自身知らなかった。
彼女は恐る恐るシリルを見た。彼女が真実を知りたがっていると悟ったシリルは、本当です、と静かに呟く。
「……ロゼッタ様、貴女の父上は現アスペラル第63代国王です」
「じゃ、じゃあ……私は……」
「正真正銘の魔族です」
心臓を一突きで突かれたかの様な衝撃がロゼッタの体を駆け巡った。 まさか、本当に魔族だったとは思わなかった。今日は魔族と疑われたり、魔族ではないと否定したり、そして本当に魔族だと言われたりと、とても忙しい日であった。が、ようやく決着が着いたのだ。
ロゼッタは魔族であった。
しかも、人間には魔王と恐れられている男の娘。
「そんな……」
混乱で喜んで良いのか、悲しむべきなのか分からない。どちらも入り混じった様な表情で、ロゼッタはただ呆然とその場に立ち尽くした。
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