アスペラル | ナノ
5

 翌朝、起きたロゼッタ達は焚火で軽く携帯食料を調理し、手早く朝食を済ませた。正直、調理してもあまり美味しいとは言えない味。だが、利便性を考えると仕方の無いこと。
 彼女達は朝食を済ませると、すぐ近くの木に繋ぎ止めていた馬の手綱を手に取る。

「では、行きましょうか」

 焚火の火を消し、毛布を馬に積んだシリルが微笑む。
 ロゼッタは頷くと、ローブを着込んでノアの元へと向かった。旅の間、彼女はずっとノアの後ろに乗っているからだ。既に馬上にいるノアは彼女の姿を見ると、面倒臭そうながらも手を伸ばしてくれた。
 ロゼッタはノアの手を掴んで引っ張って貰いながら、自分でも出来るだけ馬にしがみ付く様にして上った。

「あ、ありがとうノア」

 もう三日目となると大分慣れたものだ。馬に座るとノアの腰に手を回ししがみ付く。彼が男の割にあまりにも細いものだから、最初はロゼッタもしがみ付くのが怖かった。
 シリルの言葉を合図に、三頭の馬はゆっくりと進みだした。

「シリルさん、あとどれ位で着きますか……?」

 ノアとロゼッタの馬の前方を先導しながら走るシリルに尋ねた。
 馬はシリル、ロゼッタとノア、アルブレヒトの順で進んでいた。地図を安心して任せられるのはシリルという判断の元である。また、ロゼッタの安全を考えると彼女を真ん中にするしかない。そして最後尾が唯一接近戦が出来るアルブレヒトである。

「そうですね……半日もすれば着くかと」

 地図上の現在地と目的地の距離を頭に置き、今までの速度からシリルは考える。今から半日では既に夕刻となっている頃だろう。ロゼッタにしてみればもう少し早い方が良いが、道のりを考えると半日が妥当だと思われる。
 それにシリルとしては、日が沈みきるまで村に到着出来るのは嬉しい事だった。また真昼間に人間の村や町を徘徊するのは好ましくない。村の者も皆家に入った夕刻が忍び込むには丁度良いのだ。

「みんな、元気でやってるかしら」

 村に近付くにつれてロゼッタの嬉しげな呟きは増えていく。一時的な帰郷とは言え、一か月以上振りの故郷には嬉しさを隠せない。一緒に馬に乗っているノアは興味が全く無く、適当な相槌を打っていた。
 だが、彼女が呟くたびにアルブレヒトが複雑な表情をしているのを、シリルは知っている。当のアルブレヒトはずっと無言で彼女の話を聞いていた。

「急に行ったら、シスターも驚くわね。あんなに毎日怒られてたのに……今じゃとても懐かしい」

 厳しく叱られることもあったが、やはり優しく育ててくれた母の様な存在。騎士団に連れ去られる時も庇おうとしてくれた。
 きっとロゼッタが村へ帰れば、驚きながらも皺が何本も刻まれた顔をくしゃくしゃにして温かく出迎えてくれるだろう。

「ロゼッタ様、村には宿屋などはあるでしょうか?」

 すると馬に乗りながらシリルがロゼッタに尋ねた。

「え? 小さい村なので無いですけど……どうしてですか?」

 てっきりシリル達はロゼッタと共に教会へ行くものだと思っていた。教会と孤児院が兼ねているのもあり、貧乏ながら建物内部の広さは結構ある。男性三人位なら充分泊まれると踏んでいる。
 それに、余所に泊まろうと思ってもオルト村は無理だ。人口総数百数十人。それのほとんどが農民。人間の国の国境沿いならともかく、近くにあるのは魔族の国の国境。まず旅人が立ち寄ることも滅多に無い。そんな村で宿屋など意味が無いのだ。

「いきなりお邪魔しては迷惑かと……それにロゼッタ様の再会の邪魔をするわけにはいきませんし」

「気にしないで下さいシリルさん。それにアルもシリルさんも助けてくれた恩人だって言えば、シスターも喜びます。大した持て成しは出来ないですけど、是非来て下さい」

 結局のところ、ロゼッタの言葉に甘えるしか宿は確保出来ない。良いのだろうか、と思いつつ三人は教会を頼ることに決めたのだった。
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