アスペラル | ナノ
4

 最初アルブレヒトはきょとんとした表情で、シリルとノアを見た。それから少しだけ怪訝そうな表情も浮かべていた。
 だが、彼からの返答は「うむ」という言葉。特に照れた様な素振りは見せなかった。

「ロゼッタ様好き。シリルも、兄上も好き」

「…………まあ、その答えは予想してたけどね」

 あまりにもノアの予想通り過ぎて、彼は少々つまらなそうな表情を浮かべる。つまりアルブレヒトの感情は友愛の類い。色恋では無いのだ。もしここで、アルブレヒトが恋愛的な意味でロゼッタを好きなのだと言ったら、ノアにとってはからかうネタが増えるという面白い事態になっていた。だから少々つまらなそうなのだ。
 だが、アルブレヒトが友愛的な意味の「好き」を答えることをノアは知っていた。アルブレヒトがそういった感情を持ち合わせておらず、全く知らないことは「彼の育ち」を知っているノアには予想出来るのだ。
 
(……僕も同じ穴の狢だけどね)

 境遇の面で言えばノアもアルブレヒトも大差ない。人の事言えないな、とノアは誰にも見られずに少しだけ自嘲した。
 結局は人の事を言えない立場なのだから。

「そう、じゃあせいぜい大切にすると良いよ」

 そう言ってノアは再び本に目線を落とした。関心があるのか、それとも無関心なのか掴みにくい男である。
 そんなノアを、焚火に拾った枝を放りながらシリルは苦笑した。

「とりあえず何があったかは知りませんが、きっとアルブレヒトの気持ちもロゼッタ様に伝わりますよ。仲直り、出来る良いですね」

 二人の諍いならば、それは当人同士で決着を着けるべきである。第三者であるシリルはただ静かに見守っているしかないだろう。だが、前の様な仲の良い二人に戻ることをシリルは願っていた。
 アルブレヒトは火をじっと見つめながら、膝を抱えている。色々彼にとっても思うところはあるのだろう。こうやって悩む彼も珍しい、とシリルは微笑ましく見ていた。

「……謝る、もう少し先。心の準備、まだ」

 口下手なアルブレヒトのことだ、きっと喧嘩した後ずっと謝る時の言葉を考えていたのだろう。彼は思いやりが強い分、じっくり相手の為の言葉を選んでいるのだ。
 だが、未だ難しい表情をしている彼は模索中のようだ。

「原因、聞いても良いですか?」

 勿論無理に聞こうとはシリルも思っていない。年長者として彼らに何か助言で来たら、という気持ちから尋ねたのだ。
 アルブレヒトは少しだけ言うべきか思い悩むが、首を横に振った。

「自分で考える事。だから、自分で考える」

 シリルの親切心に気付いてか知らずか、あえてアルブレヒトは断った。彼がロゼッタに謝る事なのだから、彼自身がちゃんと考えて伝えたいのだろう。
 そうですか、とシリルは少しだけ嬉しそうに目を細めて頷いた。

 ふと、シリルは胸ポケットから銀色の懐中時計を取り出した。時刻をちらりと見て、シリルは僅かに目を細める。

「大分遅くなりましたね。とりあえず火は私が見てますから、二人は仮眠を取って下さい。村まであと僅かとは言え、また明日の朝からは馬に乗りますからね」

「うむ」

「……はいはい」

 魔物が出る可能性があるのは人間の国も魔族の国も変わらない。森での野宿は火を絶やさないのが絶対条件だ。
 シリルの言葉にアルブレヒトとノアはそれぞれ体を休めることにし、浅い眠りについたのだった。

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