15
目を凝らした先に、ちらついた人影。瞬時にノアだ、とシリルは感じた。瞳を見開き、シリルはその影に向かって短剣を勢いよく突き付ける。
が、その瞬間目の前に銀の髪の少女がノアを庇うように飛び出した。
「!」
今更それがロゼッタだと気付いても遅い。
元々ノアを狙っての距離感と踏み出しだった。それなのにノアの前にロゼッタが出ては、下手したら短剣を突き刺してしまうだろう。しかし、今更止められるわけがない。
何とか自分の体をコントロールして強制的に止めようとするが、もうシリルの意識ではどうしようも無かった。
もう駄目だ、と思った瞬間シリルの手が痺れた。そして次に聞こえたのは金属がぶつかり、弾き飛ばされる音。
シリルの短剣はロゼッタに届いてはいなかった。双剣を抜いたアルブレヒトがロゼッタを背に彼女を庇い、間一髪のところでシリルの短剣を弾いたのだ。
「……助かりました、アルブレヒト」
彼が来てくれなくてはロゼッタを短剣で貫くところだった。心臓が止まるかと思ったが、アルブレヒトのお陰で何とか免れたのだ。
「うむ。でも謝るのは自分。ロゼッタ様止められなかった」
双剣を腰の鞘に収め、シリルと共にロゼッタとノアを見る。
未だロゼッタとアルブレヒトの間でも決着は付いていなかった。先程の爆音に気を取られた瞬間、ロゼッタが駆け出した為それを彼は追い掛けたのだ。
そして、中庭まで走ってきたロゼッタはノアとシリルの戦いを目にした。それはまるで殺し合いのようで、気が付けばノアを助ける為に飛び出していた。
ロゼッタは険しい表情で二人を見ていた。その背にはノアの姿がある。
「……お戻り下さい、ロゼッタ様」
「ごめんなさい、シリルさん。それは出来ません」
確認の為に一応シリルは言ったが、やはりロゼッタの答えは想像通りのものだった。彼女の瞳を見ている限り、簡単に揺らぎそうには見えない。
ふと、そこで彼女はノアの目的を知っているのだろうかという疑問が出てきた。
ノアの目的はロゼッタの魔術を見る為に、彼女を危険な目に遭わせる事。オルト村へ連れて行くことが、彼にとって決して親切心からの厚意ではないのだ。
「……ロゼッタ様、ノアの目的をご存じでしょうか?」
だが、彼女の気持ちを揺らがせるには充分な材料と言えるだろう。
「いいえ」
ロゼッタは静かに首を横に振った。
ロゼッタ自身、ノアの本当の目的など知らないし、知りたいとも思わなかった。ただお互い利害の一致があるから、共にアルセル公国へ行くことになったのだ。
「ノアが魔術に対しては熱心に研究してることは、ご存知かと思います。ノアはロゼッタ様の魔術が見たいのです。それの発動条件は……ロゼッタ様の身の危険が条件と仮説を立てて」
少しだけロゼッタは目を見開いた。だが、何となく理由は彼女でも分かった。
彼女の魔術は、ロゼッタ自身が危険にならないと出ないからだ。ようやくノアが今回の件に協力的な理由が分かった気がした。
しかし、その場は緊張の空気に包まれる。
果たして、ノアの目的を知ったロゼッタはどういう行動に移すのだろうか。シリルは息を呑んだ。
ノアに対して怒りを露わにするのか、それともそれでも行く意思を曲げないのか。シリルやアルブレヒトとしては、ここで二人が仲間割れしてくれた方がロゼッタを引き留め易い展開と言える。
(15/16)
prev | next
しおりを挟む
[
戻る]