アスペラル | ナノ
4


「どうして……?」

 逆にロゼッタが問いていた。
 アルブレヒトやシリルがお役目第一とはいえ、彼女に同情してくれているのは何となく分かっていた。だからこそ、二人はぎこちないのだ。
 だが、ノアは違う。家族が分からない彼は、ただただ子供の様に純粋な瞳で尋ねている。

「え? 聞いてるのは僕なんだけど?」

 問い掛けに対して問い掛けで返さないで、と言いたげな瞳でノアはロゼッタを見る。

「……家族なんだもの、当然じゃない。ノアにとってアルは家族なんだから、大切だって気持ち分からないの……?」

 すると、少しだけノアは考える様に首を傾げた。考えなくては分からない事を彼女は問い掛けた覚えは無い。少なくとも誰しもが分かる感覚だと彼女は思っていた。
 しかし目の前の青年だけは違う。前に「親は気が付いたらいなかった」という呟きを聞いたことがあるが、その事実は想像以上に彼の感覚を狂わせていた。
 だが、少しだけ矛盾が生じる。彼は前にアルブレヒトの事を「唯一家族と呼べる存在」としている。ならば家族がいないわけがない。

「アルが戦争に巻き込まれたら心配しないの?」

 大分答えに苦戦していたようなので、ロゼッタは質問の仕方を変えた。これならば、ノアでも答え易いと思ったのだ。
 ノアは天上を少々仰ぐような動作をするが、すぐに深緑の瞳でロゼッタを見詰めた。

「……別に、巻き込まれてしまったものは仕方ないし。陛下に仕えている以上、当然じゃない?」

 もしアルブレヒトが戦争に巻き込まれたらを想像し、ノアから出てきたのは「仕方がない」という返答であった。ロゼッタすら言葉を失ってしまった。
 元々ノアは考えが読めない人であったが、今は特に読めないとロゼッタは感じていた。無表情で淡々としているいつもより、どこか人間味が欠如している様にも思えた。だが、それは冷酷や薄情などという表現は適切ではなかった。何かが欠けているのだ。それを彼は気付く事無く、そのまま生きてしまっている。

「そういう問題じゃない……家族って違うもんでしょ。上手く言葉じゃ説明出来ないけど、理屈とかで片付くようなものでもないわ」

 ロゼッタの思っている家族というものはもっと温かいものだ。だからこそ守りたいと思えるし、心配だってする。

「そっか……そういうものなんだ」

 感心した様にノアは何度か頷きながら納得していた。その姿はまるで子供のようで、彼がどうやって育ったのか何となくロゼッタは分かってしまった。
 ノアはロゼッタと同じく、気が付いた時には両親がいなかったのだろう。だが、ロゼッタのように周りに愛してくれた教会のシスターや兄妹達の様な存在がいなかったのだ。それが大きな違いを生んだのだ。

「でも、それって血が繋がっていなくてもそうなの?」

 ロゼッタもノアも家族と呼ぶ存在は血の繋がりは決してない。だが、ロゼッタは首を左右に思いっきり振った。

「当たり前でしょ、私はそう信じてるわ……!」

 シリルは言っていた、全てはロゼッタ次第であり自分自身がそう信じているならばそうなのだ、と。この言葉には救われた気がした。まだ家族でいて良いと言われたようで。
 きっぱりと言い放ったロゼッタがノアをじっと睨むように見つめると、彼は手に持っていた本をパタンと閉じた。

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