アスペラル | ナノ
7


 ローラントの元へと向かっていったロゼッタは、すぐさまローラント率いる騎士団と共に王都へと向かう事となった。
 その際、彼の部下の一人が鉄鎖を持ってきた。それを見た瞬間、ロゼッタは顔色を変える。

「ちょっと待って!鎖で繋ぐ気……?!」

「まだ君が魔族だと決定したわけではないが……疑いのある以上、拘束する義務がある。悪いが、従ってもらう」

 ロゼッタには従う他ない。何故なら四方を騎士達に囲まれているのだから。彼女が抵抗した所で、敵うはずもない。
 無言となったロゼッタを見やり、ローラントは部下に彼女の手首に着ける様に命令した。

 数分後には、重い鎖がじゃらじゃらと音を立ててロゼッタを拘束したのだった。

 それから隊列を素早く組み、騎士団は動きだした。ロゼッタの周りには騎士が当然つき、右についたのはローラントであった。
 彼はロゼッタの横を黙々と歩いていた。

「……王都まで、どれ位なの……?」

「歩けば五日程度だ」

 不機嫌そうなロゼッタの言葉――最早呟きに近い言葉に答えたのもローラント。彼の声音は表情が無さ過ぎて、表情が全く読み取れない。
 そう、とだけ呟き彼女はまた無言で歩き続ける。とてもじゃないが、楽しくはない。しかも手は鎖で繋がれている上に、五日はこうなのだろう。

 そんな時に思い出すのは教会にいた時の事。それから修道女やアンセル、リーノ、他の姉弟達。

(……帰りたい)

 村を出てまだ十分程しか経っていない。振り返れば村は遠くに見える。だが、既に村の教会が恋しくて仕方がなかった。ただ、あの優しい陽だまりの様な場所へ帰りたい。

(私が何をしたって言うのよ……)

 じわりと涙で視界を滲ませながら、ロゼッタは夕陽を見た。赤く情熱的に燃える太陽とは対照的に、彼女の心は暗く冷えていた。

 自分が世界の不幸を背負っている様な気分だった。それ位、彼女は魔族として拘束されている事を悲観していた。

「……魔族には、私達とは違う特徴がある」

 すると突然、ローラントから口を開いた。低い声が淡々と響き渡り、ロゼッタは驚きの目で彼を見ていた。

「……何を驚いている。魔族だと疑われている理由が知りたいだろう」

「そりゃ、そうだけど……」

 考えていた事があっさり見透かされていた様で、ロゼッタは僅かに表情を曇らせた。そんなに表情に出したていたつもりもない。

「魔族は生まれ付き、特殊な唄を持っている」

「唄……?」

「あぁ。彼らの言葉で、玲命の誓詞(アグラント)というらしい」

「アグ、ラント……?」

 そんな言葉、ロゼッタは聞いた事がない。だが、彼の言った「生まれ付き持っている唄」が気になって仕方がなかった。
 ロゼッタ自身、生まれ付き誰も知らない唄を謳えるのだから。

「……詳しい事は私も知らない。だが玲命の誓詞は魔族にしか謳えず、大切なものらしい」

「だから……不思議な唄を謳う私を、魔族だと疑っているの……?」

 そうだ、と彼は頷いた。
 そんな曖昧な理由で拘束されたかと思うと、ロゼッタは彼を怒鳴り付けてやりたくなった。不思議な唄を謳う、それだけで捕まるなんて可笑しな話過ぎる。

 だが、よく考えれば彼は地位が高いと言っても仕えている人間。ならば命令でロゼッタを捕まえに来たのだ。好きでこんな所にいる筈ない。
 そう考えると彼を責めるのも可哀想に思えたロゼッタ。彼女は大人しく彼の言葉を聞く事にした。

「……オルト村に、不思議な唄を謳う少女がいるという噂が、最近王都にいる高官の耳に入ったんだろう。それで私が捕らえてくるように命令された」

 またもや考えていた事を見透かされた様だ。彼の発言にはロゼッタも流石にどきりとした。

「どうして、そんな噂が……?」

「多分、偶然だろう。王都となれば、旅人も多く立ち寄る。酒場に行けばその程度の噂は多くある」

「そう……」

 なら、噂が一生その高官とやらの耳に入らなければ良かったのに、とロゼッタは心の中で呟いた。そうすれば、こんな事にはならなかっただろうし、村にずっと住んでいられたのだ。
 だがローラントを憎んではいない。彼なりに配慮してくれたお陰で村人には怪我人はいなかった。無愛想で取っ付きにくいが割りと常識はある様だ。

「あなたの目では、私は魔族に見える?」

 ロゼッタの問いに彼は面を食らったのか、少しだけ驚くような表情を浮かべた。しかしそれも一瞬で、すぐさま先程と変わらない無表情へと戻っていた。

「……私には、何ら変わった所のない普通の少女に見えるな」

 思った事を彼はそのまま述べたのだろう。飾り付けられていないストレートな物言いは、確かにそれが本心なのだと感じさせた。

(……最初は高圧的な嫌な人みたいだったけど……)

 今は彼が素直な人間なのだと認識した。ただ、分かりづらいだけである。
 ロゼッタも素直にそう感じた。

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