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よく見ると、リカードの後ろにはアルブレヒトの姿もあった。二人とも息を切らせながら、懸命にこちらに向かって走って来る。
彼らの存在に気付いた何匹かの魔物は、果敢にもリカード達に走っていく。
「邪魔だ!」
だが、ただの魔物など一国の騎士団の団長には容易い相手なのだろう。走りながら剣を抜くと、目にも留まらぬ速さで全てを切り捨てる。後ろを走るアルブレヒトすら何も出来る事はなかった。
彼がここまで走る理由が、ロゼッタにはすぐに分かった。何故ここにいた事を知っているのかは知らないが、心配でラナを追ってきたに違いない。
それ程先程のラナの名を呼ぶ声には、彼女に対する心配が含まれていた。
「どけっ!」
吼える様に魔物に言うと、目の前にいる魔物を片っ端からリカードは斬っていた。すると次第に残りの魔物達は自分達が不利である事を知り、森の奥深くへと逃げていった。
「ロゼッタ様……!」
魔物はリカードに任せ、アルブレヒトはロゼッタに駆け寄ってきた。
「アル……」
「ロゼッタ様、ラナ、無事?」
ロゼッタはすぐ近くで心配そうに見下ろしているアルブレヒトを見上げる。
「私は無事よ。ラナは? 大丈夫?」
咄嗟に抱き締めてラナを守ったロゼッタは、腕の中のラナを見た。未だ半分放心状態のラナはコクコクと首を上下に揺らした。
「アル達はどうしてここに……?」
森に入るとは言ってこなかった筈である。どうして知っているのか、ロゼッタには不思議だった。
「アルが、ラナが森へ向かうのを見ていたんだ」
すると、剣を腰の鞘に収めながらリカードは近付いてきた。眉間には深い皺が寄り、声音には怒気がこもっている。不機嫌である事が明白であった。
アルブレヒトが森へ入ってくラナを見たのは偶然であった。どこかへ行ってしまったハチを探していたアルブレヒトは、ニ階の窓から外を見た。その時見えたのは裏門を越えていくラナの後ろ姿。
彼も森には魔物が潜んでいる可能性があるのは知っていた。少し違和感を覚えた彼は、その後リカードに知らせて森へ急いだのだった。
「ラナ」
リカードは二人の前に立つと、真っ先にラナの名前を静かに呼んだ。俯いていた彼女は少し肩を揺らしたが、ゆっくりと面を上げて兄を見返した。
「どうして、こんな危険な事をした?」
リカードは激情型だと思っていたロゼッタだが、予想外にも彼は静かに怒っている様であった。怒っているのだが静かに問い掛ける姿は、逆に威圧感があって怖いと思えた。
しかし、ロゼッタから見ればラナに問い掛けるのは違うと思った。原因はロゼッタ自身にあり、彼女が森に入ってしまったからラナも入ったのだ。
「ちょっと待って、リカード!」
ロゼッタはラナを離し、その場に立ち上がった。ここはラナ一人だけ責められるべきではない。
「ラナは森に飛び出した私を追い掛けてきただけなの……!」
「なら、何で尚更そこで踏み止まらなかった? 俺や誰かを呼んで行けば良い話だろう!」
森に入った事もそうだが、彼が怒っているのはたった一人でどうにかしようとして危険な目に遭った事なのだろう。どれ程彼が心配したのかロゼッタは分からないが、妹や弟がいたロゼッタにはそれが想像出来る気がした。
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