18
「リカードは、ラナに死んで欲しくないの」
「え?」
ロゼッタはラナに理由を話した。先程リカードが言っていたラナに仕事を辞めさせたい理由を。全てロゼッタの側にいる事が危険なのだという事も。
ゆっくり説明しながら、ロゼッタは自分が全ての原因である事に気付いた。今回余計なお節介をしなければラナを傷付けなかった事は勿論、自分がこのアスペラルに来なければラナは彼女の世話係になる事はなかった。という事は、リカードに仕事を辞めろと言われる事もなかったのである。
「お兄様は、馬鹿ですね……」
ロゼッタが説明を終えると、珍しくもラナはそうポツリと呟いた。一体どういう意味で彼女が言っているのかは、ロゼッタには分からない。
「そんな事、私はとっくに承知しているのに」
微かに呟くように出されたその言葉は、きっとロゼッタに向けて言われた言葉ではない。今ここにはいない兄へ向けられていたのだろう。
ロゼッタは言葉を発する事なく、静かに聞いていた。
「教えてくれてありがとうございます、姫様」
「そんな、お礼言われる様な事は全くしてないわ」
ロゼッタは表情を曇らせながら、首を横に振った。した事と言えば、事態を悪化させたようなものだ。お礼を言われる覚えはない。
「いいえ、姫様が私の手を引いてくれなかったら、お兄様の話を聞く事はなかったんです」
今回リカードの気持ちを知る事が出来たのは良い機会だったのだ、とラナは言う。今まで自ら動く事のなかった彼女は確かにロゼッタに感謝していた。
それにロゼッタがいなければ、リカードが一番にラナの身を案じている事も彼女が知ることはなかっただろう。
ふわり、と柔らかくラナは笑った。それは痛々しい張り付けた様な笑顔ではない。
「ありがとうございます、姫様。今度はちゃんと自分で、お兄様と話してみます」
そういう兄である事を、もしかしたらラナは忘れていたのかもしれない。家族や仲間は大切にしているお人好しな兄、だという事を。
だからこそ、ちゃんとリカードと話し合ってみようと思えたのだろう。そして、彼女にとってそれを教えてくれたのもロゼッタなのだ。
「強いわね、ラナ」
ポツリとロゼッタは感心した様に呟いた。たまにおどおどとした表情を見せる彼女に、ロゼッタは「か弱い女の子」というイメージを抱いていた。しかし、今日一日で覆された様な気分だった。
「そうでしょうか?」
「本当はラナを探している時、ラナ泣いてるんじゃないかなって思ってたの。でも全然涙見せないし、何て言ったら良いのかな……前向きで凄いなって」
そんなラナをロゼッタは純粋に凄いと思うし、芯が強いと思った。
だが、ラナは首を横に振って違います、と言う。
「姫様がちゃんと自分で言わなきゃダメだって事、教えてくれましたから。それにリカードお兄様の事も、姫様の事も信じてますから。だから大丈夫なんです」
泣く事がないのは二人を信じているからこそ、そして前向きに考えられるのはロゼッタのお陰なのだ、とラナは笑った。
ロゼッタは苦笑しながら肩を竦めた。自分はそんな風に言われる程、大それた事をした覚えはない。だがラナに笑いながらそんな事を言われてしまえば、否定すら出来なかった。
だが、もうラナは大丈夫だとロゼッタは確信した。次こそはしっかりとリカードと話し合う事が出来るだろう、と思える程である。
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