17
裏庭へ向かいながら、ロゼッタはラナが怒っていた場合の謝り方などを懸命に考えた。どう説明すべきか、など彼女は悩みながらもどうにか関係を円滑にしたかったのだ。
こんな事態、今まで村で生きていた頃はなかった。ここまで友人関係で頭を悩ませたのは初の事である。
しかし、一向に頭の中では考えが纏まらないまま、とうとうロゼッタは裏庭へと到着していた。ここで引き返すわけにもいかず、ロゼッタは裏庭を見渡してラナの姿を探した。
裏庭は話に聞いた通り、厩や倉庫になっている小屋があり、中庭や前庭に比べれば殺風景であった。しかし、植物が決してないというわけでもなく、木が何本か植えられ所々に陰を作っていた。
「ラナ……」
そして、何本かあるうちの木の下にラナの姿をロゼッタは発見した。
木の下にいるラナはまるで木を見上げる様に立っており、ロゼッタに背を向けた状態である。どうやら、ロゼッタが裏庭に到着した事に気付いていない様だ。彼女は未だ微動だにしない。
「……」
ラナの背中からは全く感情が読み取れず、声が掛け辛いというのがロゼッタの正直な感想だ。もしかしたらここはそっとすべきなのかもしれない、という考えも浮かんだ。
しかし、そんな考えも必死で振り払い、ロゼッタはラナに近付いて行った。ここまで事態を悪化させたのは自分なのだから、放っておくわけにはいかないのだ。出来る事なら、何とか自分が収めなければならない。
「ラナ」
若干遠慮がちにロゼッタは後ろから声を掛けてみた。
きっと声を掛けられるとは思っていなかったのだろう。ラナはびくっと肩を震わせ、恐る恐るロゼッタを振り返った。
「姫様……」
「良かった、見付かって。探してたの」
「す、すみません、急にいなくなってしまって……」
ロゼッタを随分歩かせてしまったと思ったのか、ラナは眉を曇らせて謝罪した。するとロゼッタは慌てて首を横に振った。
「私は良いの。それより、その……大丈夫?」
ここへ来るまでずっと彼女に掛ける言葉を考えていたが、咄嗟に出た言葉は気の利かない至って普通の言葉。言った後で、もっと違う言葉を掛ければ良かった、とロゼッタは後悔した。
「私は大丈夫です」
それでもラナは笑顔で応えてくれた。だが、その笑顔も張り付いた様な笑顔でロゼッタには痛々しく感じた。
ロゼッタが見たところ、どうやら泣いていたわけではなさそうだった。彼女の目が赤くなったり腫れてたりはしないからだ。
そんな彼女を強いな、とロゼッタは思う。もし大切な人にあんな事を言われたら、ロゼッタは自分なら泣いてしまうと思ったからである。
「ごめんね、私が……あんなお節介したから」
「姫様のせいじゃありません。それにお兄様の本心をちゃんと聞けたから、良いんです」
私の気持ちこそお兄様にとってお節介でした、とラナは苦笑しながら言う。明らかにリカードの言葉を真に受けた様であった。
「ち、違うのラナ! あれはリカードの本心ってわけじゃないし、ラナの事すっごく心配してたわ!」
リカードの為に弁明してやるつもりはないが、彼女が傷付いたまま誤解し続けるのはいけない。彼女の為にもリカードが仕事を辞めさせたがっていた理由をロゼッタは話そうと思った。
いっそと怒ってくれた方が良いのに、とロゼッタは思う。ラナは優しい故に彼女を責めたりもせず、ただ悲しむ他ない。
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