アスペラル | ナノ
16


 リカードの元を飛び出したロゼッタの気掛かりは一つだけ……先に何処かへ行ってしまったラナの事だった。
 あんな別れ方をしてしまったが、一緒に行くべきだったとロゼッタは後悔してる。とにかく彼女は離宮に戻ると、ラナの行方を追った。

(大丈夫かな、ラナ……)

 去っていく時のラナは泣いている様にも見えた。もしかしたら、まだ何処かで泣いているかもしれない、とロゼッタは心配している。

(私……お節介になっちゃったのかしら……)

 ロゼッタとしては良いと思ってした事。だが、ラナの手を引いてリカードの元へ連れて行かなければ、こうなる事もラナが傷付く事もなかっただろう。悪い事をしたとは思っていないが、少しだけロゼッタは後悔した。

「とにかく、ラナを見付けなきゃ……」

 もし見付けたとしても、何て言葉を掛けたら良いかは分からない。だが、ここで投げ出すわけにはいかなのだ。
 歩き出したロゼッタは離宮内の至る所を見て回った。使用人部屋や炊事場、洗濯場などラナがいそうな所は全て覗いてみたが、結局見付ける事は出来なかった。
 途中で出会った他の使用人にもラナを見なかったか、と尋ねてみたりしたが、皆首を横に振っていた。

「どこに行ったのかしら……エリーも知らないって言ってたし」

 ラナが先輩として慕う使用人の一人・エリノアにも途中で会った。だが、彼女に尋ねてみてもラナの行方は一向に知れない。
 こんなに探し回っているのに、見つからないのもおかしい。見付かりにくい場所に行ってしまったのか、それとも離宮外へ行ってしまったのか。ロゼッタはどんどん悪い方向へ考えてしまう。
 まだラナが自身の部屋に戻ったなら安心出来る。だが、ロゼッタはラナの部屋は教えられた事もないので知らなかった。

「ラナがノアの地下室に行くなんて、考えにくいわね」

 顎に手を添え、まだ訪ねてない所を考えると、真っ先にノアの地下室が出てきた。ノアとラナという組合わせはあまり想像出来ないし、この二人に接点があるとは到底思えない。
 地下室はないわね、とロゼッタは次に探しに行く候補から消した。
 そうなると、残りは大分少ない。あとは手当たり次第に行くしかなさそうである。

「そういえば、まだ裏庭は見てないわね」

 離宮には前庭、中庭、そして裏庭とある。建物以外庭を全て合わせた敷地は、多分建物以上に大きいだろう。それが離宮が庭で有名である所以だ。
 だが、未だにロゼッタは裏庭に訪れた事はなかった。前庭や中庭は草花で美しいものの、裏庭は厩や倉庫などがあるだけで、眺める場所ではないからだ。普段は使用人くらいしか行かない所だろう。ロゼッタには裏庭があるという知識程度しかない。
 ともかく少しの可能性を信じて、ロゼッタは裏庭へ向かって歩みを進めた。

(ラナ、怒っちゃったかしら……)

 ロゼッタの余計なお節介が発端なのは事実。もしかしたら余計な事をしたロゼッタを、彼女は怒っているかもしれない。
 ようやくラナと仲良くなってきたとこだったのに、とロゼッタは落胆した。この離宮で彼女と年の近い人物はアルブレヒトとラナくらいだろう。特にラナは同性という事もあり、ロゼッタとしては彼女と仲良くなる機会をずっと窺っていた。

(これで嫌われたらどうしよう)

 立ち聞きした事は怒っていなかったから大丈夫だったが、今回ばかりは分からない。もしかしたら友達になる機会すら永遠に失ってしまうかもしれない。
 そんな事を考えてしまうと、自然と彼女の口からは溜息が零れ落ちた。


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