13
ラナを連れたロゼッタが庭へ着くと、そこには既にリカードの姿があった。相変わらず集合時間より早めに来ている几帳面な男である。
それでもロゼッタは怯む事なく、ラナを連れてずんずんとリカードに近付いて行った。
ロゼッタにはすぐに気付いたリカードだが、その後ろに妹のラナがいる事に気付くと彼は目を見張った。当然だ、剣術の稽古に彼女まで来るとは思っていなかったのだから。
「どうして、ラナがいる」
会って開口一番がそれだった。ラナと話していたせいか十分程遅れてしまったが、今のリカードにはそれについて小言を言う事も頭にないらしい。
今の彼の頭の中では、何故ロゼッタとラナが一緒にいるのか、という事で占めているのだろう。
「お、お兄様……」
自分がいる事でリカードが怒ってしまったと思ったのか、ビクッと肩を震わせたラナ。だが、まるで庇うようにラナとリカードの間に立ちはだかる様にロゼッタは立った。
「色々話し合わなきゃいけないと思うの。ラナも、リカードも」
強い瞳でリカードを見上げながら、腰に手を当ててロゼッタはきっぱりと言い放つ。その瞬間、彼は眉を寄せた。
「俺は話し合う事など無い」
ロゼッタから目を逸らし、ロゼッタもラナも突き放す様に彼は言った。
「あるでしょ、ちゃんと。このまま話を平行線のままにするの?」
だが、そう簡単にロゼッタも引き下がったりはしない。まるでリカードを挑発するような口調で反論する。
「ラナは結婚したくないって。それをもう少しラナの為に考えてあげなさいよ」
「だから、話す事はない……それに、何でお前がそれを知っている」
ラナと兄妹である事は割りと周知の事実なので、ロゼッタがそれを知っている事は大して驚きはしない。だが、ラナに縁談を勧めている話など、誰かに話した覚えはないリカード。
威圧感たっぷりにロゼッタを一睨みするが、彼女は背筋を伸ばして怯んだ様な姿を見せなかった。
「これはアッヒェンヴァル家の問題だ。部外者が口出しするな」
「話を聞いちゃったら、もう部外者じゃないわ」
「屁理屈を……」
互いに譲らない睨みあいを二人は続けた。ロゼッタの後ろにいるラナは二人の険悪な雰囲気を感じ取り、どうするべきか分からずに立ち尽くしていた。
自分のせいでこうなっているのは、ラナも十分承知している。だが、リカードとロゼッタを諌める術を彼女は知らなかった。止めなくてはいけない、と分かっていても彼女は動けずにいた。
「なら、何で自分の意見をラナに押し付けるのよ?!」
ちゃんと理由があるんでしょうね、とロゼッタは詰問した。全く聞き耳を持たないリカードにはロゼッタも呆れ気味だったのだ。
ここまで頑固なのも困りものである。
「ラナは仕事を辞めたくないのに……ただ、リカードの役に立ちたくて一緒にいるのに」
ラナの健気な思いをどうにかリカードに伝えたくて、ロゼッタは必死に代弁しようとする。少しでも彼に伝われば良い、と思いながら。
「それが不要だって言ってるんだ!」
しかし、気付いた時にはキツイ言葉リカードの口から飛び出していた。
ロゼッタも、言った張本人であるリカードもハッとした時には既に後の祭り。全てが後ろにいたラナの耳にしっかりと届いていた。
それはラナの気持ちをも拒絶するかのような言葉だった。
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