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幸いにも、今日は朝から剣術の稽古が入っている。
つまり、普段なら仕事で本城にいるリカードが離宮内にいる上に、庭にいる事が分かっているのだ。探す手間も大分省ける。
ラナの手を取ったロゼッタは、急いで庭へと向かっていた。
「あ、あの姫様……大丈夫なのでしょうか?」
ロゼッタの後ろから心配そうなラナの声が聞こえてくる。兄の仕事の邪魔になると思っているのだろうか。少しだけ不安そうでもあった。
「大丈夫よ。それに、今伝えなきゃいつ伝えるの? さっきも言ったけど、ちゃんと言わなきゃ気付かないわよ、あの鈍い頑固者は」
頑固者なのは知っているが、鈍いかは流石にロゼッタも分からない。だが、頭の固そうなリカードなら十分有り得そうな気もする。
すると、ラナがようやく明るくクスクスと笑い声を漏らした。
「多分、姫様くらいですね」
「何が?」
前を見つめてラナの手を引きながら、ロゼッタは問う。そこまで変な事をした覚えも、言った覚えもない。
「リカード兄様にそこまではっきり言えるの、兄妹以外でなかなかいませんでしたから」
きっと、それはラナのリカード以外の兄や姉を指しているのだろう。兄妹仲が良さそうだから、きっと兄妹間では色々言い合ったりもするに違いない。
だが、少しだけロゼッタは複雑な気分だった。それは褒められているのか分からないが、リカードと仲が良いと言われている様で何とも言えない。
すると、羨ましいです、というラナの微かな呟きがロゼッタの耳に届いた。
「私、リカード兄様の考えている事とかよく分からないですから……」
理解してあげたいのに、理解出来ないもどかしさがまるで繋いだ手から伝わってくる様だった。
きっとラナなりに助けたくて、支えたくて、その背中を追い掛けていたに違いない。だが、遠くを歩く兄に追い付く事も出来ず、そして見つめているものも分からなかったのだろう。
するとロゼッタは、あのねー、と呆れた様な言葉を吐き出した。
「私だって分かるわけないでしょ。互いに良く思ってないし、ましてや血縁関係でもないんだから。それに、その人本人にしかその人の気持ちは分からないわよ。他人が頑張ったって、完全に分かりっこない」
まるで今までのラナの努力を否定するかの様に、きっぱりロゼッタは言い放つ。彼女にしては珍しくラナに毒舌だった。
「自分で知る事が出来ないなら、教えて貰うしかないわよ」
「え?」
どうやって、と言いたげにラナは前を早足で歩くロゼッタの後ろ姿を瞳に映す。色素の薄い銀の髪は、窓から差し込む光を反射してきらきらと輝いていた。
「ラナもリカードも、今まで一方的過ぎなの。互いに言うだけで、相手の意見の意味も知らないじゃない。ラナもちゃんと自分の気持ち伝えれば、自然と応えてくれると思うわよリカードは」
そうでしょ、とロゼッタはラナを振り向いて笑った。あまりにも綺麗に笑うものだから、同性にも関わらずラナは目を奪われた。
ラナはそれでもロゼッタは凄いと思った。そんな事考えた事もなくて、いつでも堂々としてみせてる彼女には自分の足りない物が沢山あるのだと気付いた。
「はい、そう……信じます」
ロゼッタの事もリカードの事も信じよう、ラナは静かに心に決めたのだった。
(12/29)
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