アスペラル | ナノ
22


 子猫を一匹ずつ抱え、ロゼッタとアルブレヒトは廊下を黙々と歩いていた。特に目的地などない。しいてい言うならば、猫を預かってくれる者を探していた。
 しかし、もう離宮内の使用人には聞きまくったため、聞いていない人はいない。
 残りは帰りを待っている軍師のリーンハルトくらいだろう。

 二人は迷った挙句、リーンハルトを待つ為に離宮の正門にいる事に。ここならば、いつ彼が帰って来ても分かるからだ。
 ロゼッタは門の石柱にもたれ掛り、アルブレヒトはその横の城壁にもたれながらしゃがんでいた。

「遅いわね、ハルト……」

 シリルはもう少しでリーンハルトが帰ってくると言ったが、彼の場合予定が変わる事もあるので分からない。急な会議のせいで帰れなくなるのもざらだ。

「うむ、ハルト多忙。仕方ない」

 そう言葉で言っていても、アルブレヒトもまだ子供なのだろう。腕の中の子猫の未来が分からず、不安そうな表情をずっとしているのだから。
 不安を拭うためか、アルブレヒトの猫を抱き締める力が少しだけ込められる。

「……」

「……」

 特に話題がなくなった後は、二人の間に沈黙が流れる。門の石柱にもたれ掛かりながら、どうしたものか、とロゼッタは考えた。
 不安である事は一目瞭然のアルブレヒトを元気付ける必要はあるのは分かる。だが、どんな言葉を掛ければ良いのか分からなかった。

 優しく純粋なアルブレヒトにどんな言葉を掛けたところで、ロゼッタにはそれは薄っぺらくしか感じないからだ。

「……ロゼッタ様」

 すると、意外な事にアルブレヒトの方から口を開いた。躊躇うかの様に言葉を選んでいる。

「もし、引き取り手が見付からなかったら、子猫どうなるの……?」

 ロゼッタは息を飲んだ。
 ずっとそれが彼は気掛かりだったのだろう。言葉の端々から辛く、哀しい感情が滲み出ていた。それは、リカードに会いに行く前の表情と似ていた。どこか切実で、泣きそうな。

「引き取り手いなかったら……捨てられる?」

 子猫が可哀想というだけの感情で揺れているとは、ロゼッタには思えなかった。そう、まるで子猫に何かを重ねているかの様な、そんな気がした。


――必要とされない事。捨てられる事。全部寂しい。それに、悲しい


 アルブレヒトが言っていた事を、ロゼッタは思い出す。もしかしたら、彼は恐れているのだろうか。必要とされない事、そして捨てられる事を。
 その理由を勿論ロゼッタは知らない。だが、理由を聞こうとは思わなかった。

「アル……」

 ロゼッタはアルブレヒトを見下ろすように、彼の方を向いた。彼はしゃがんでいた為、彼女を見上げる様な形となる。

「馬鹿な事を言わないの。引き取り手がいないからって、捨てるわけないでしょ!」

 きっとアルブレヒトをもっと理解するのは難しい。一晩二晩で出来る事じゃない、とロゼッタは理解している。
 だから、彼女が出来る事を、掛けられる言葉を掛けてやるつもりだった。恐れを取り除くことは難しいが、緩和させる事なら出来るのだから。

「引き取り手が見付からなかったら、私達が離宮で飼えば良い話じゃない! 私が飼いたいって言えば、飼わせてくれる筈よ!」

「でも……」

 ロゼッタの言葉に、珍しくアルブレヒトは狼狽している様だった。
 すると、彼女はそれに、と言葉を続けた。

「……きっと、この子達は幸せだと思うわよ。アルがこんなに必死になってくれるんだから。この子達にしてみれば、もしかしたらアルが一番必要なのかもしれないわ」

「自分が……?」

 驚いた様にアルブレヒトはまじまじと猫を見つめた。話の分かっていない猫は一鳴きすると、アルブレヒトに頭を摺り付けた。

「勿論、私だってアルが必要だと思うの。だから、子猫も……アルも、寂しくはないわよ」

 茫然としたアルブレヒトとは対照的に、ロゼッタは穏やかな笑みを浮かべている。
 そして、彼女からアルブレヒトに手が差し出された。


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