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だが、一匹決まったとはいえ、まだロゼッタとアルブレヒトの下には貰い手の決まらない二匹がいる。
こちらも早く貰い手を探す必要があった。
「あと、どうしようかしら……離宮中の人には聞いたわけだし」
「うむ、リカードも聞いた」
当たれる知り合いは全て当たった気がする。シリルで最後だったので、後はどうするべきか考えていなかったのだ。
「軍師には聞いてみましたか?」
あと聞いていないのは、今外出中で本城にいる軍師のリーンハルトくらいだろう。二人はすっかり彼の存在を失念していた。
だが、忙しい彼が猫を飼うことは出来ないだろう。一日のほとんどを仕事で過ごしているのだから。
「ハルトいないし、それに飼えないでしょう?」
「確かに軍師はいませんし、確認は取れませんが……軍師も顔が広いので、知り合いを当たってくれるかもしれませんよ?」
シリルの話によると、軍師という職柄のためか商人や貴族、騎士といったように幅広い分野で知り合いがいるらしい。
皆に変態変態と罵られていても、一応は軍師。彼に媚を売る者も多い。
「じゃあ、帰ってきたら聞いてみようかしら……」
シリルの言うことならば、はっきり言って信頼出来る。リーンハルトの顔が広いと言うならば、広いのだろう。
リーンハルトの場合、仕事が忙しくていつ帰ってくるか分からないが。もしかしたら、明日帰ってくる可能性もあり得る。
「軍師、もう少しで帰ってきますよ?」
「え?」
ロゼッタはキョトンとした表情でシリルを見た。
一応リーンハルトは軍師故に多忙な人物だ。日によっては次の日に帰るというのも珍しくはない。
だが、シリルの話ではもう少しで帰ってくるという。今はまだ夕方にもなっていないので、夕方には帰ってくるらしい。
「今日は珍しく早く帰れるってはしゃいでましたよ、本城で」
「その姿が想像できるわ……」
リーンハルトが真面目に仕事をしている姿は想像出来ないが、はしゃいでいる姿なら想像出来るロゼッタ。溜息を吐きながら額を押さえた。
具体的にどうはしゃいでいるのかは分からないが、きっと周りの部下は苦労しているだろう。
「じゃあ、ハルトを待ってみましょう」
「うむ」
今彼女達に残された選択肢は、どうやら一つのようだ。アルブレヒトも賛成の様で、二人は次にリーンハルトを頼ってみる事にした。
「じゃあ、私は少々外出しますね。この子を知人の元へ連れて行きます」
そう言ってシリルは微笑むと椅子から立ち上がった。その腕の中にはしっかりと猫が優しく抱かれている。
「わざわざ、ありがとうございますシリルさん……!」
シリルとて、他にもする事があるだろう。だが、それでも猫の為にもう少しで夕方だというこんな時間に出掛けてくれるらしい。
ロゼッタもアルブレヒトもそんな彼に申し訳なく思ってしまった。
「シリル、ありがとう」
表情の起伏が分かり辛いアルブレヒトだが、それでも済まなそうにシリルを見上げている。そんな彼らに、シリルは苦笑した。
「気にしなくて良いんですよ、二人とも。私も久々に知人に会えるんですから、丁度良かったんです」
こういう風にさり気無く気遣って優しいシリルを、ロゼッタは素敵な大人だと思う。彼の美徳を上げるならば、優しさと寛容な所だろう。
ロゼッタが真似しようと思っても、なかなか出来ないに違いない。
「そんなに遠いわけでもないので、夕食までには帰りますね」
出掛ける支度を済ませたシリルはそう言って微笑んだ。
「はい、分かりました。いってらっしゃい、シリルさん」
部屋の主が不在になってしまうという事で、シリルと共に部屋から出た二人は、その場でシリルを見送った。
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