18
アルブレヒト自身でさえ、自分が何故あんな勝手な行動を取ったのか解らなかった。
主人であるロゼッタを置いて勝手に退室しようとしたり、彼女の行動に口を挟んだり。
普段なら、絶対にしない事だ。
だが、気が付いたらあんな事をしていた。ロゼッタとリカードが楽しげなのを見て、無意識だったかもしれないが、口も身体もアルブレヒトの意思を無視して動いていたのだ。
「待って、アル!」
猫を抱えたロゼッタが、先に行ってしまったアルブレヒトを追い掛けてパタパタと駆けてくる。
いつの間にか、彼の歩みは速くなっていたのかもしれない。アルブレヒトは立ち止まり、気まずそうに振り返った。
「すみません……ロゼッタ様」
まず何から詫びていいのか分からないアルブレヒトの口から、自然と謝罪の言葉が出ていた。
「あ、私は別に大丈夫よ。そんなに走ってないわ。気にしないで」
笑っているロゼッタは気付いていない、何も。
「急にどうしたの?」
「いや、何でもない、です……」
ロゼッタの問いに対してその答えは不自然でしかなかったが、アルブレヒトに気の利いた言葉が思い付く筈がない。これが彼の精一杯だった。
少しだけキョトンとしていたロゼッタだったが、それ以上聞く事はなかった。余計な詮索というのを、彼女はしない様にしているようだ。
「シリルさんとこ、行きましょうか」
ロゼッタの言葉を合図に、二人は歩き出した。彼女の方が気を使って詮索しなかった様である。
彼女の気遣いは嬉しいものだったが、アルブレヒトはどこか詮索して欲しい気もした。自分が何故あんな事をしたのか、もしかしたら彼女が知っているかもしれないからだ。
だが、口に出す事はない。自分でどう言葉で表したらいいか、分からないからだ。
リカードとロゼッタの様子を見ていたらモヤモヤしたなどと、抽象的過ぎて相手を困らせるかもしれないと思ったのもある。
「そういえば、シリルさんの部屋に行くのは初めてかも。アルは行った事ある?」
「一度だけ。仕事で」
親しいとはいえ、そうそう相手の部屋を訪れるという事はないらしい。仕事で互いに滅多に部屋にいないというのもあるが。
アルブレヒトが一度訪れたのは少し前。書類を運ぶのを手伝う為だった。
「シリルさんの部屋は綺麗そうね。結構几帳面だし、片付いてそう」
しばらく一緒に過ごして、シリルの性格は大体把握しているつもりだった。
勉強を教えてる時も、普段の物腰もシリルは穏やかで丁寧。だから、部屋も綺麗なのだろうと彼女は予想立てた。
「うむ。片付いてる。すごく綺麗」
彼女の言葉に、アルブレヒトはすぐさま同意した。
やっぱり、と彼女は笑った。
「そういえば、私皆の部屋って行った事ないわね……」
思い出した様にポツリとロゼッタは呟いた。離宮に住んで数週間、アルブレヒトとリカード、ノアの部屋の場所は知っているものの、入った事があるのはノアの地下室位だ。
猫の首元を撫でながら、ロゼッタはアルブレヒトをじっと見た。
「アルの部屋ってどんな感じなの?」
彼女にしてみれば、些細な疑問だったのかもしれない。アルブレヒトの性格は未だ、たまに分からない事もある。どんな部屋なのか想像つかないのだ。
「……普通」
ポツリ、とアルブレヒトは言った。
「普通? あんまり想像出来ないわね……」
ノア程極端に汚ないという事はないだろうが、シリル程几帳面でもないだろう。彼女の中のイメージとしては、蜂蜜の瓶が転がっていそうである。
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