17
挙動不審だったリカードをとりあえず落ち着かせ、ロゼッタとアルブレヒトは今までの経緯を話した。猫を拾ってしまった事、貰い手を探している事を。
リカードはしばらく静かに話は聞いていてくれた。二人との間に、七個分の座席が空いていたが。
「まあ、話は分かった……」
少し遠い位置にいるものの、リカードは納得した様に頷いた。
「だが、俺は飼えないぞ」
きっぱりとリカードは言い放つ。理由はご覧の通り、猫が苦手だからだ。
「でしょうね、その様子じゃ」
猫が苦手なリカードが猫を飼えるとは、ロゼッタも流石に思っていない。無理に頼むつもりもなかった。
「リカード、知り合いに貰い手いる?」
ならば、とアルブレヒトは彼の人脈を頼る事にした。彼とて貴族の一員。社交界に行けばそれなりに知り合いもおり、友人知人はそこそこいるらしい。
だが、リカードは申し訳なさそうに首を横に振った。
「悪いなアル。あまり知人にそういう奴はいないんだ。もしいたら、紹介してやりたいとこだが……」
やはりアルブレヒトには優しいらしい。彼なりに心当たりはないか考えてくれた様だ。
「シリルには聞いてみたか?」
「まだ。仕事から戻っていない」
シリルは今日仕事の為に本城へ行っており、まだ会ってはいなかった。確かに彼が帰ってきたら、聞いてみる価値は有りそうである。
シリルの交友関係については詳しくないが、彼ならば良い情報が得られそうだ。
「さっき戻ったみたいだ。少し顔を出したからな」
すると、シリルが既に本城から帰ってきている事をリカードは告げる。
ロゼッタとアルブレヒトとは入れ違いになってしまった様だが、先程少しだけ広間に立ち寄っていたらしい。それからすぐに部屋へ戻ったとの事だ。
「なら、次はシリルさんの所へ行きましょうか」
「うむ」
猫を抱えながらアルブレヒトは頷いた。今の二人にはシリルが一縷の希望の様なものである。
ふと、ロゼッタはリカードを見た。今では普段通りしれっとした態度で座っているが、先程の慌てている姿はある意味新鮮だった。
「リカードって、何で猫苦手なの?」
アルブレヒトも少しだけ思った素朴な疑問である。ロゼッタは微塵も遠慮する事なく、彼に尋ねていた。
「……何だっていいだろ」
だが、当然リカードは言いたがらない。渋い表情を浮かべながら、お前には関係ない、とそっぽを向いてしまった。彼がここまで猫嫌いを隠すのも何だか怪しい気がする。
もっと追及してやろうか、と思ったロゼッタは「リカード逃げないで」と、わざと追う。
「ふざけるな、馬鹿」
と言いつつ、リカードは距離を置こうとする。ある意味、ロゼッタからリカードが逃げる光景は異様なものだった。
何も知らない人が見れば、仲睦まじく追いかけっこしている様にも見える。
だが、意外にもアルブレヒトに遮られてしまった。
「……ロゼッタ様。シリルの所へ行く」
「そ、そうね」
彼が止めるのは少しだけ意外だったかもしれない。面食らったロゼッタは、つい言われるがままに立ち止まる。
ふと、リカードはアルブレヒトの顔を見た。初対面の者が見たら、彼を無表情と言うのだろう。しかしリカードは微妙な変化を見逃していなかった。
「あ、待ってアル」
部屋を出ていこうとするアルブレヒトを追い掛け、ロゼッタは広間を出ていった。
騒がしかった室内が一気に静まり返り、静寂を取り戻した。
(……珍し)
あんなアルブレヒトを見たのは久し振り、いや初めてかもしれない。
二人が出ていった扉を見つめながら、リカードは椅子にもたれ掛かった。
(ありゃ、妬きもちで不貞腐れた犬だな)
心の中で呟いたリカードは、我ながら良い喩えだ、と自画自賛した。
年齢よりは少々大人びているアルブレヒトだが、そういった所は年相応なのだろう。主人に構って貰えなくて、ああいった行動に出たのだから。
(……まさか、な)
だが、もしそういった感情でないなら、と考えるとまた違う感情なのかもしれない。
アルブレヒトに限っては無さそうだな、とリカードは考えるを打ち消したのだった。
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