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「アルー? アル、どこー?」
手掛かりも見つける手段もない彼女は、しらみ潰しに町の中を歩き回った。
再び歩いてみて分かったが、どうやらロゼッタはあまり町並みを覚えてなかったらしい。先程まで雑貨屋を探す事に専念していた彼女は、道を覚えるという事をしていなかった。
(結構困ったわ……アルが見つからない)
アルブレヒトはアルブレヒトで、きっと彼女を慌てて探しているのだろう。お互いが動き回っているからか、上手く会う事が出来ない。
もしかしたら、ある意味上手い具合に入れ違っているのだろう。
「あ、あの……」
このままでは見つけられないと感じ、意を決してロゼッタはすれ違いかけた年配の女性に声を掛けた。年の頃はグレース位。少し痩せ気味の普通の女性だった。
女性は不思議そうに立ち止まり、突然声を掛けてきたロゼッタを見上げた。
「私と同じ位の身長で、茶色の髪に青い目の男の子見ませんでしたか? 腰には短い剣があって、歳は十五なんですけど……」
「いや、見てないねぇ」
未だ不思議そうな表情をしながらも、年配の女性は首を横に振った。彼女がそう言うのだから、見てないのだろう。
そうですか、と僅かに落胆した様な表情を見せたロゼッタ。だが、年配の女性が悪いわけでもない。
年配の女性に礼を言って、ロゼッタはその場を立ち去ろうとした。だが、今度は女性が彼女を呼び止めたのだ。
「はい?」
特に呼び止められる心当たりのないロゼッタ。とりあえず、歩き出そうとしていた足を止めた。
「娘さんは、この町は初めてかい?」
「ええ、そうです」
それは真実だ。彼女がこの町を訪れたのは、生まれて初めて。
きっと見慣れない少女がいたから、年配の女性はそう思ったのだろう。
「なら、そこいらにいるごろつきには気を付けた方がいいよ」
「え?」
女性の突然の言葉に、ロゼッタは驚きの表情で見返した。
「最近増えてねぇ……裏道に入るといるんだよ」
本当に困った様に女性は呟く。
話を聞いてみたところ、最近は柄の悪い連中が路地裏などで騒いでいるらしい。何か目的があるのかは知らないが、彼らの存在に気付かないでそこを通りかかった町の人や旅人が被害に遭っているとか。
とても物騒な話だが、何も知らなかったロゼッタには良い情報である。
「誰か、捕まえたりしないんですか……?」
そこまで話が大きくなっているならば、騎士団などが動いてもおかしくない話だ。それにここまで大きな町なら、自衛の為の警邏隊もいても良いだろう。
「最初は何人か町の男達がどうにかしようって話になったんだけどね、数も多いし、しかもかなり体格も良いものだから……」
太刀打ち出来ない、とすぐに町の男達は悟ったらしい。それ以降、路地裏の連中の話題はタブーになった。
つまり、触らぬ神に祟りなし。関与しないというのが暗黙の了解なのだ。
「とにかく、若い娘さんは危ないから、娘さんも気を付けるんだよ」
「え、ええ……」
そう念を押すと、年配の女性はその場を去っていった。呆然とロゼッタは彼女を見送ると、前を向いた。
(……柄の悪い連中が、路地裏に……)
思い出されるのは今しがた聞いた話。
正直、ロゼッタにはあまり関係が無い様にも思えた。路地裏に入り込まなければ良いのだから。
(気を付ければ大丈夫よね……そんな所に入らないでアルを探せば良いんだから)
それなら大丈夫だろう、とロゼッタは自分で納得した。先程の女性が言っていた路地裏や怪しい道には入らない、と彼女は心に決めた。
「さて、アルを探さなきゃ」
方針を決めたロゼッタは、再び歩き始めた。
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