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それからしばらく、ロゼッタは何度も何度も行ったり来たりを繰り返した。間違えた道を町の端まで行ってしまい、引き返すというパターンが主だった。
その間、アルブレヒトはずっと黙って彼女の後ろにいた。彼女が危ない目に遭えば助けるが、雑貨屋までの道のりについて教えてくれる事はない。
いや、目の前で困っているロゼッタに教えたいという気持ちはあった。だが彼女の為、と気持ちを殺してただ黙っていた。
彼女の為だと思っているからだ。
(足、痛くなってきた……それより、雑貨屋ってどこよ……)
だが、気分転換には程遠い心境である。アルブレヒトとシリルの気持ちなど知らないロゼッタには、疲労と苛々が募っていた。
日光も燦々と降り注ぎ、歩き続けている彼女には暖かいというより暑い程である。通りを歩いている人も更に数を増やしていた。通りは人に埋め尽くされる様な人だかりが。
通り全てが人で埋め尽くされている、と言っても過言ではないだろう。
人が多い理由は知らないが、とにかくロゼッタは掻き分けて進み続ける。
途中人に何度かぶつかりもしたが、その度に謝り歩み続けた。
(こっちかしら……)
ロゼッタは方向を変え、違った道を歩こうとした。意外にもそちらは人が少ない様である。
あっさりと針路変更をして違う道に入っていたロゼッタだったが、アルブレヒトはそうはいかなかった。彼女の側を離れない様にしていたものの、度々道行く人々に道を塞がれたり、ぶつかったりしたお陰で彼女との距離は次第に離れていった。
「ロゼッタ様……!」
アルブレヒトは急いで彼女の名を呼んだ。しかし、周りの喧騒――店の主人の呼び込みや、話しながら歩く人々の笑い声に容易く掻き消されてしまう。
彼女は気付いていない様であった。アルブレヒトが既に近くにいない事に。
(はぐれる……ロゼッタ様……!)
それでも近くに行こうとアルブレヒトはもがくが、それは叶わない。徐々に遠くなっていく彼女の後姿を、届かない手で空を切ったのだった。
***
しばらくした頃、ロゼッタはふと立ち止まった。道を歩くのも、先程より大分楽になった。だから振り向く余裕が出来たのだ。
彼女は当然アルブレヒトは後ろにいるものだと思っていた。
しかし、振り向いてみるとそこに彼の姿はない。目を見開いたロゼッタは辺りを急いで見渡した。
「ア、アル……?!」
少し距離が離れてしまっただろうか、と来た道をじっと見てみるが、やはり彼の姿は一向に見えない。
アルブレヒトは彼女も呆れる程の忠実な従者だ。勝手に何処かへ行ってしまったとは考えにくい。
(もしかし、はぐれちゃった……?)
となると、彼女の考えが行き着く先はただ一つ。はぐれた、という結論に彼女は至った。
(ど、どうしよう……?! 全然知らない町ではぐれるなんて……)
初めて来た町のせいで、何処に何があるかなんて分からない。当然、ある程度なら来た道を思い出せるかもしれないが、町の外れに止めてある馬車まで辿り着ける自信は無い。
はぐれた場合の集合場所を決めてれば良かったのだが、既に手遅れだ。
正直なところ、打つ手が無い。
(というか、ここどこ……?)
今まで後ろにアルブレヒトがいるという安心感があった為、探り探り歩く事が出来た。しかし、いざ彼がいなくなるとロゼッタはどうしたら良いか分からなくなった。
町並みをとりあえず眺めてみるが、心当たりはない。町のどの辺りなのかすら分からなかった。
「とにかく、アルを探さなきゃ……」
立ち止まっていては仕方ない、とロゼッタはアルブレヒトを探す為に歩き出した。とにかく彼がいなくては、目的を果たす事も、ましてや離宮に帰る事も出来ないのだから。
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